2026 冬のおまかせ: リーグ・オブ・レジェンドの数学
紹介
ゲームは本質的に多数の数値と演算の上に構築された仮想世界である。プレイヤーは華やかなグラフィックやヒット感に没入するが、その裏では精緻な数式が歯車のように噛み合い、ゲームのバランスを支えている。人はしばしば「数値が2倍になれば効果も2倍になるだろう」という線形的直感を持つ。しかしゲーム開発者は時にこの直感を意図的にねじ曲げたり、複雑な非線形関数を導入したりする。今回『2026 冬オマカセ』のメインディッシュは、リーグ・オブ・レジェンドのステータス設計である。
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スキル加速
リーグ・オブ・レジェンド(LoL)での スキル加速ability haste (AH) ステータスは、スキルのリチャージ時間(再使用待ち時間)を短縮する重要な要素である。スキル加速によってプレイヤーはより頻繁にスキルを使用でき、戦闘で有利な状況を得られる。スキル加速値に応じたスキルのリチャージ時間短縮量の式は次のとおりである。リチャージ時間の基本値が $t$ で、スキル加速が $\text{AH}$ のとき、新しいリチャージ時間 $t'$ は次のように計算される。[ ^1 ]
$$ t' = t \times \frac{100}{100 + \text{AH}} $$
したがってリチャージ時間短縮率cooldown reduction (CDR) $\text{CDR} (\%)$ は次のように計算できる。
$$ \text{CDR} = \left(1 - \frac{t'}{t}\right) \times 100 = \left(1 - \frac{100}{100 + \text{AH}}\right) \times 100 = \frac{\text{AH}}{100 + \text{AH}} \times 100 $$
達成したいリチャージ時間短縮率があるなら、上式の $\text{CDR}$ に目的の値を代入して必要なスキル加速 $\text{AH}$ を求められる。式を $\text{AH}$ について整理すると次のようになる。
$$ \text{AH} = \frac{ 100 \times \text{CDR}}{100 - \text{CDR}} $$

グラフの概形を見ると、目標減少率に対する必要スキル加速値が指数的に増加することがわかる。例えば、$50\%$ のリチャージ時間短縮を得るためには $100$ のスキル加速が必要だが、$90\%$ の短縮を得るためには実に $900$ のスキル加速が必要になる。異常に高いリチャージ時間短縮率を達成できないように設計されたシステムであることがわかる。
ここでスキル加速の数値そのものを直感的に理解するには、リチャージ時間ではなく単位時間あたりのスキル使用回数で考える方が容易である。リチャージ時間 $t$ はスキルを一回使用するのに要する時間なので、単位時間あたりのスキル使用回数 $N$ はその逆数で表せる。まるで振動数frequencyと周期periodが互いに逆数関係にあるのと同じである。
$$ N = \frac{1}{t} $$
するとスキル加速 $\text{AH}$ が適用された単位時間あたりのスキル使用回数 $N'$ と $N$ の関係は以下のようになる。
$$ \dfrac{N'}{N} = \dfrac{t}{t'} = \dfrac{100 + \text{AH}}{100} = 1 + \dfrac{\text{AH}}{100} $$
上式によればスキル加速が $50$ なら、単位時間あたりのスキル使用回数が $50\%$ 増加し($=1.5$ 倍)、スキル加速が $100$ なら単位時間あたりのスキル使用回数が $100\%$ 増加($=2$ 倍)する。すなわち スキル加速とは、単位時間あたりのスキル使用回数の増加率である。
防御力
LoLでの 防御力armor (AR) は物理ダメージを軽減する役割を果たす。防御力値に応じた物理ダメージ軽減率の式はスキル加速と同様である。物理ダメージが $D$ で、防御力が $\text{AR}$ のとき、実際に受ける物理ダメージ $D'$ と物理ダメージ軽減率physical damage reduction (PDR) は次のように計算される。
$$ D' = D \times \frac{100}{100 + \text{AR}}, \qquad \text{PDR} = \left(1 - \frac{D'}{D}\right) \times 100 = \frac{\text{AR}}{100 + \text{AR}} \times 100 $$
物理ダメージ軽減率 $\text{PDR}$ の定義に従えば $\dfrac{\text{AR}}{100 + \text{AR}} \lt 1$ であるから、防御力をいくら上げても物理ダメージを $100\%$ 完全に相殺することはできない。

防御力に対する物理ダメージ軽減率の効率性を直感的に見たいなら、それを微分すればよい。$\text{PDR}$ の微分係数を求めると、微分の性質 $(f/g)' = (f'g - fg')/g^2$ により次のように計算される。
$$ \begin{align*} \frac{d (\text{PDR})}{d (\text{AR})} &= \left( \frac{\text{AR}}{100 + \text{AR}} \times 100 \right)^{\prime} \\ &= 100 \left( \frac{\text{AR}}{100 + \text{AR}} \right)^{\prime} \\ &= 100 \left( \frac{1 \cdot (100 + \text{AR}) - \text{AR} \cdot 1}{(100 + \text{AR})^2} \right) \\ &= 100 \left( \frac{100}{(100 + \text{AR})^2} \right) \\ &= \frac{10000}{(100 + \text{AR})^2} \end{align*} $$

これは $y = \dfrac{1}{x^2}$ 型の有理関数であり、分母に二乗項が含まれているため防御力が増加するにつれて物理ダメージ軽減率の増加幅は急速に減少する。最初は防御力がそのままダメージ軽減率に等しく変換されるが、防御力が $50$ に達する前に、防御力が物理ダメージ軽減率へ変換される割合は半分以下に落ちる。防御力が $100$ になると、物理ダメージ軽減率への変換割合は $25\%$ に落ちる。
ダメージ軽減率の式自体はスキル加速と同じだが、ここで考慮すべき点がさらにある。それはリチャージ時間と違って最大体力(HP)もプレイヤーが成長させ得ることである。さらに魔法ダメージも考慮すればより複雑になるが、まずは物理ダメージと体力だけを考えることにする。現在の体力を $\text{HP}$、物理ダメージ軽減率を $\text{PDR}$ とすると、耐えられる最大ダメージ量 $D_{\max}$ は次のように計算される。
$$ D_{\max}(100 - \text{PDR}) = \text{HP} \implies D_{\max} = \frac{\text{HP}}{100 - \text{PDR}} $$
すると $D_{\max}$ は防御力を考慮した実効体力(いわゆる耐久)と見なせる。防御力を上げたときに実際に耐久がどれだけ強くなるか、直感的に体力がどれだけ増えるかを計算するには $D_{\max}$ の変化率を求めればよい。
$$ \dfrac{D_{\max, \text{new}}}{D_{\max, \text{old}}} = \dfrac{\dfrac{\text{HP}}{100 - \text{PDR}_{\text{new}}}}{\dfrac{\text{HP}}{100 - \text{PDR}_{\text{old}}}} = \dfrac{100 - \text{PDR}_{\text{old}}}{100 - \text{PDR}_{\text{new}}} $$
防御力 $1$ は $20$ ゴールド程度の価値を持つ1 が、現在の防御力が $100$ で $1,000$ ゴールドをすべて防御力に投資して $150$ まで上げると仮定する。すると以下のように計算され、実質的に体力が $25\%$ 増加するのと同じであることがわかる。
$$ \dfrac{100 - \text{PDR}_{\text{old}}}{100 - \text{PDR}_{\text{new}}} = \dfrac{100 - \operatorname{PDR}(100)}{100 - \operatorname{PDR}(150)} = \dfrac{100 - 50}{100 - 60} = \dfrac{50}{40} = 1.25 $$
$\text{HP}$ は $1$ ポイント当たり $2.67$ ゴールドの価値を持つため2、$1,000$ ゴールドをすべて体力に投資すると体力は約 $375$ ポイント増加する。したがって現在の体力が次の不等式を満たすとき、$1,000$ ゴールドを防御力に投資するより体力に投資する方が効率的である。
$$ \dfrac{\text{HP} + 375}{\text{HP}} \gt 1.25 \implies \text{HP} \lt 1,500 $$
