固有値の代数的重複度と幾何的重複度
📂行列代数固有値の代数的重複度と幾何的重複度
代数的重複度
行列 A∈Rm×m に対して、固有値は λ が det(A−λI)=0 を満たす時に定義される。特性方程式は λ に関してm 次の方程式、つまり
det(A−λI)=(−1)mλm+cm−1λm−1+⋯+c1λ+c0=0
と表せる。代数学の基本定理によって、特性方程式は複素数を含めて正確に m 個の根を持つ。ここで、根には重根が含まれ、重根を持つということは、固有値が重複を含めて求まるという意味になる。重根に着目するために、特性方程式を因数分解した形で表してみよう。
det(A−λI)=c(λ−λ1)a1(λ−λ2)a2⋯(λ−λk)ak
k≤mi=1∑kai=m
このように表した時、行列 A はk 個の異なる固有値を持ち、λi はai 個だけ重複する。この固有値 λi が 代数的重複度 ai を持つと定義する。
幾何的重複度
一方で、固有値 のもう一つの説明として、幾何学的な意味を考えてみよう。行列 A の固有値 λi について、x1,x2∈Cm が行列方程式Ax=λix の解になるとしよう。すると、2つのベクトルx1,x2 は同じ固有値 λi に対応する固有ベクトルになるはずだ。もちろん、一つの固有値に対して固有ベクトルは無限に存在するが、これは固有ベクトル x を拡大・縮小したαx が存在するからである。
しかし、もしx1 とx2 が互いに直交するならどうだろうか?これらは同じ固有値を共有するが、拡大・縮小して互いを表現することはできない線形独立であるためだ。
このような議論を一般化してみよう。
Sλi={x∈Cm ∣ Ax=λix}
は行列A の固有値 λi に対応する全ての固有ベクトルの集合になる。ここでgi=dimSλi と表すと、gi は固有値 λi を共有しつつ互いに直交する固有ベクトルの種類の数になる。この固有値 λi が 幾何的重複度 gi を持つと定義する。
参照
当然ながら、代数的重複度と幾何的重複度が一般に同じである保証はどこにもない。そして、どこかで「固有値の重複度」という表現が特に説明もなく使われたとしたら、それは十中八九(代数的)重複度を意味している。
幾何的重複度を特に定義する理由の一つには、(もちろん数学の本質という説明で十分だが)物理学でその概念が登場するからである。
異なる二つの波動関数が同じ固有値を持つ状態を指すが、「行列式を多項式の形で表す」ということに大きな意味を置かない物理学では、この状況は幾何的重複を意味する。数学で固有値だけで固有ベクトルを区別できないように、物理学でもエネルギー準位だけでは波動関数を区別できないのである。