線形変換:カーネルと値域
定義1
$T : V \to W$を線形変換とする。$T$が$\mathbf{0}$にマッピングする$V$の要素の集合をカーネルまたは零空間と言い、以下のように表記する。
$$ \text{ker}(T) = N(T) := \left\{ \mathbf{v} \in V : T( \mathbf{v} ) = \mathbf{0} \right\} $$
すべての$\mathbf{v} \in V$の$T$による像の集合を$T$の値域またはイメージと言い、以下のように表記する。
$$ R(T) := \left\{ T(\mathbf{v}) : \forall \mathbf{v} \in V \right\} $$
説明
$T : V \to W$が線形変換で、$V, W$が有限次元であれば、$T$は実質的に行列と同じで、$N(T)$は$T$を表す行列の零空間である。
定理
$T : V \to W$を線形変換とする。その場合、
- (a) $T$のカーネルは$V$の部分空間である。
- (b) $T$の値域は$W$の部分空間である。
証明
部分空間であることを示すためには、空集合ではなく、加法とスカラー倍で閉じていることを示せばよい。
(a)
$T$が線形変換であれば、$T(\mathbf{0})=\mathbf{0}$によって$N(T)$は空集合ではない。今、$\mathbf{v}_{1}, \mathbf{v}_{2} \in N(T)$であり、$k$を任意のスカラーとする。すると、以下が成立する。
$$ \begin{align*} T( \mathbf{v}_{1} + \mathbf{v}_{2} ) &= T(\mathbf{v}_{1}) + T(\mathbf{v}_{2}) = \mathbf{0} + \mathbf{0} = \mathbf{0} \\ T( k\mathbf{v}_{1}) &= kT(\mathbf{v}_{1}) = k\mathbf{0} = \mathbf{0} \end{align*} $$
したがって、$N(T)$は$V$の部分空間である。
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(b)
$T$が線形変換であれば、$T(\mathbf{0})=\mathbf{0}$によって$R(T)$は空集合ではない。今、$\mathbf{w}_{1}, \mathbf{w}_{2} \in R(T)$であり、$k$を任意のスカラーとする。すると、以下を満たす$\mathbf{a}, \mathbf{b} \in V$が存在することを示せば十分である。
$$ T(\mathbf{a}) = \mathbf{w}_{1} + \mathbf{w}_{2} \quad \text{and} \quad T(\mathbf{b}) = k\mathbf{w}_{1} $$
しかし、$\mathbf{w}_{1}, \mathbf{w}_{2} \in R(T)$ということは、以下を満たす$\mathbf{v}_{1}, \mathbf{v}_{2} \in V$が存在するという意味である。
$$ T(\mathbf{v}_{1}) = \mathbf{w}_{1} \quad \text{and} \quad T(\mathbf{v}_{2}) = \mathbf{w}_{2} $$
したがって、以下の式が成立する。
$$ \begin{align*} \mathbf{w}_{1} + \mathbf{w}_{2} &= T(\mathbf{v}_{1}) + T(\mathbf{v}_{2}) = T(\mathbf{v}_{1} + \mathbf{v}_{2}) = T(\mathbf{a}) \\ k\mathbf{w}_{1} &= kT(\mathbf{v}_{1}) = T(k\mathbf{v}_{1})= T(\mathbf{b}) \end{align*} $$
したがって、$R(T)$は$W$の部分空間である。
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Howard Anton, Elementary Linear Algebra: アプリケーションバージョン (12版, 2019), p455-456 ↩︎