実ベクトル空間における内積とは?
定義1
$V$を実ベクトル空間とする。$V$上の内積inner productとは、以下の条件を満たしつつ、$V$内の二つのベクトルを一つの実数$\langle \mathbf{u}, \mathbf{v} \rangle$に対応させる関数のことをいう。
$\mathbf{u}, \mathbf{v}, \mathbf{w} \in V$で、$k \in \mathbb{R}$の時、
- $\langle \mathbf{u}, \mathbf{v} \rangle = \langle \mathbf{v}, \mathbf{u} \rangle$
- $\langle \mathbf{u} + \mathbf{v}, \mathbf{w} \rangle = \langle \mathbf{u}, \mathbf{w} \rangle + \langle \mathbf{v}, \mathbf{w} \rangle$
- $\langle k \mathbf{u}, \mathbf{v} \rangle = k \langle \mathbf{u}, \mathbf{v} \rangle$
- $\langle \mathbf{v}, \mathbf{v} \rangle \ge 0 \quad \text{and} \quad \langle \mathbf{v}, \mathbf{v} \rangle = 0 \iff \mathbf{v}=\mathbf{0}$
説明
定義を読んでみると、高校時代から使っていたその内積を表現するために必ず満たすべき条件だと思うだろう。概念的にはこれ以上一般化されることはないが、実数を複素数に拡張する程度が残っている。線形代数を学べば、内積を実数値を取るように定義することにとどまるだろうし、関数解析やヒルベルト空間を学ぶときには、複素数値を取るまで一般化して扱うことになるだろう。
ユークリッド空間では、通常[距離]、[ノルム]、[内積(点乗)]をそれぞれ定義した後、これらの関係式を性質として導出するが、このように一般ベクトル空間で内積を一般化すると、ノルムと距離も以下のように自然に定義される。
$$ \begin{align*} \| \mathbf{v} \| &:= \sqrt{ \langle \mathbf{v}, \mathbf{v} \rangle } \\ d( \mathbf{u}, \mathbf{v}) &:= \| \mathbf{u} - \mathbf{v} \| = \sqrt{ \langle \mathbf{u} - \mathbf{v}, \mathbf{u} - \mathbf{v} \rangle } \end{align*} $$
様々な空間での内積
ユークリッド空間
ユークリッド空間では以下のように加重内積weighted inner productを定義することができる。
$\mathbf{u}, \mathbf{v} \in \mathbb{R}^{n}$、$w_{i} \mathbb{R}$に対して、
$$ \langle \mathbf{u}, \mathbf{v} \rangle = w_{1}u_{1}v_{1} + w_{2}u_{2}v_{2} + \cdots + w_{n}u_{n}v_{n} $$
物理実験で観測された値を$x_{1}, \dots x_{n}$、観測回数を$f_{1}+f_{2}+\cdots +f_{n}=m$とすると、$w_{1}=w_{2}=\cdots=w_{n}=\frac{1}{m}$とすることは、加重内積を使って平均を表すことができる。
$$ \langle \mathbf{x}, \mathbf{f} \rangle = \dfrac{1}{m} \left( f_{1}x_{1} + f_{2}x_{2} + \cdots f_{n}x_{n} \right) $$
行列空間
行列空間$M_{nn}$での内積は以下のように定義される。
$U, V \in M_{nn}(\mathbb{C})$に対して、
$$ \langle U, V \rangle = \text{Tr}(U^{\ast} V) $$
この時、$\text{Tr}$はトレースである。これを以下のように記述し、フロベニウス内積Frobenius inner productとも呼ぶ。
$$ \left\langle U, V \right\rangle_{F} $$
$2 \times 2$行列の例を見ると、上の定義が各成分同士の積の和であることが簡単にわかるだろう。二つの行列$U, V$が以下のようであるとする。
$$ U=\begin{bmatrix} u_{1} & u_{2} \\ u_{3} & u_{4} \end{bmatrix} ,\quad V=\begin{bmatrix} v_{1} & v_{2} \\ v_{3} & v_{4} \end{bmatrix} $$
すると
$$ \begin{align*} && U^{\ast} V &= \begin{bmatrix} u_{1}^{\ast} & u_{3}^{\ast} \\ u_{2}^{\ast} & u_{4}^{\ast} \end{bmatrix} \begin{bmatrix} v_{1}^{\ } & v_{2}^{\ } \\ v_{3}^{\ } & v_{4}^{\ } \end{bmatrix} \\ && &= \begin{bmatrix} u_{1}^{\ast}v_{1}^{\ } + u_{3}^{\ast}v_{3}^{\ } & u_{1}^{\ast}v_{2}^{\ } + u_{3}^{\ast}v_{4}^{\ } \\ u_{2}^{\ast}v_{1}^{\ } + u_{4}^{\ast}v_{3}^{\ } & u_{2}^{\ast}v_{2}^{\ } + u_{4}^{\ast}v_{4}^{\ } \end{bmatrix} \\ \implies && \text{Tr}(U^{\ast}V) &= u_{1}^{\ast}v_{1}^{\ } + u_{2}^{\ast}v_{2}^{\ } + u_{3}^{\ast}v_{3}^{\ } + u_{4}^{\ast}v_{4}^{\ } \end{align*} $$
参照
Howard Anton, Elementary Linear Algebra: Aplications Version (12th Edition, 2019), p341-349 ↩︎