行空間、列空間、零空間の基底
概要1
行空間、列空間、零空間などの概念は、線形システムを解くために作られた。線形システムは基本行操作を通じて解くことができるが、実際に行空間と零空間は基本行操作に対して不変であるため、線形システムと関係があることがわかる。ここで注意すべき点は、列空間は基本行操作に対して不変ではないということだ。
定理1
(a1) 行同等な2つの行列は、行空間が同じである。つまり、基本行操作は行空間を変えない。
(b1) 行同等な2つの行列は、零空間が同じである。つまり、基本行操作は零空間を変えない。
証明
(a1)
2つの行列が行同等であるとする。このとき、各行列は他の行列から基本行操作で得ることができる。これは、2つの行列の各行は、他の行列の行の任意の線形組み合わせで得られることを意味している。したがって、生成の定義により、2つの行列の行空間は同じである。
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(b1)
2つの行列が行同等であるとする。基本行操作は線形システムの解を変えないので、2つの線形システム との解は同じである。したがって、2つの行列の零空間は同じである。
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列空間に対する例
2つの行列とが以下のようであるとする。
すると、の1行目にを掛けて2行目に加えることでを得ることができるので、、は行同等である。しかしの列空間はで生成されるが、の列空間はで生成されるので、2つの行列の列空間は異なる。ただし、ここで注意すべき点は定理3でわかるように、空間は変わるが次元は変わらないということである。
定理2
行列を行階段形式と呼ぶ。すると、先頭1を持つ行ベクトルがの行空間の基底を構成し、先頭1を持つ列ベクトルがの列空間の基底を構成する。
定理3
2つの行列が行同等であれば、次のことが成立する。
(a3) の列ベクトルが線形独立であるための必要十分条件は、それに対応するの列ベクトルが線形独立であることである。
(b3) の列ベクトルがの列空間の基底を構成するための必要十分条件は、それに対応するの列ベクトルが線形独立であることである。
上記の定理から、基本行操作が列空間の次元を変えないことがわかるが、上の例で示されているように、これが列空間自体が変わらないことを意味しないことをもう一度注意しよう。
Howard Anton, Elementary Linear Algebra: Applications Version (12th Edition, 2019), p267-270 ↩︎