対称行列、歪対称行列
定義1
任意の正方行列$A$が次の式を満たすとき、$A$を対称行列symmetric matrixと呼ぶ。
$$ A=A^{T} $$
このとき、$A^{T}$は$A$の転置行列である。$A$が次の式を満たすとき、$A$を反対称行列anti-symmetric matrixと呼ぶ。
$$ A =-A^{T} $$
説明
転置行列の定義により、正方行列ではない行列は対称行列、反対称行列にはなれない。$A$が反対称行列なら、定義により$a_{ii}=-a_{ii}$となるので、対角成分は必ず$0$である。
性質
$A$、$B$が同じ大きさの対称行列で、$k$を任意の定数とする。
(a) $A^{T}$は対称行列である。
(b) $A \pm B$は対称行列である。
(c) $kA$は対称行列である。
(d) $A$が可逆であれば、$A^{-1}$も対称行列である。
(e) $A$を$m \times n$行列とする。すると、$AA^{T}$は$m \times m$対称行列であり、$A^{T}A$は$n \times n$対称行列である。
(f) $A$が可逆であれば、$A^{T}A$と$AA^{T}$も可逆である。
証明
(d)
$A$が可逆行列だとする。すると$(A^{T})^{-1} = (A^{-1})^{T}$が適用されるので、$A^{-1}$も対称行列である。
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(e)
$A$を$m \times n$行列とする。すると$AA^{T}$のサイズは$(m \times \cancel{n} ) \times (\cancel{n} \times m) = m \times m$であり、転置行列の性質により以下が成立する。
$$ (AA^{T})^{T}=AA^{T} $$
したがって、$AA^{T}$は対称行列である。$A^{T}A$についても証明は同じである。
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(f)
可逆行列の性質により、$A$が可逆であれば、$A^{T}$も可逆であり、可逆行列の積は可逆なので、$AA^{T}$、$A^{T}A$も可逆である。
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定理
二つの行列の積が対称行列であるための必要十分条件は、二つの行列の積が交換可能であることである。
二つの行列の積二つの行列の積は一般に交換可能ではないことを心に留めておく。
Howard Anton, Elementary Linear Algebra: Applications Version (12th Edition, 2019), p72-74 ↩︎