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逆行列、可逆行列 📂行列代数

逆行列、可逆行列

定義

$A$をサイズ$n\times n$の任意の正方行列としよう。$A$と行列の積が可能で、以下の式を満たす行列$L$を$A$の左逆行列という。

$$ LA=I_{n} $$

ここで$I_{n}$はサイズ$n\times n$の単位行列である。$A$と行列の積が可能で、以下の式を満たす行列$R$を$A$の右逆行列という。

$$ AR=I_{n} $$

$A$が左/右逆行列を両方持っていれば、これらは互いに等しく$A^{-1}$と表記され、$A$の逆行列という。

$$ A^{-1}A=I_{n}=AA^{-1} $$

$A$が逆行列を持つ場合、$A$を可逆行列または非特異行列という。$A$が逆行列を持たない場合、$A$を特異行列という。

説明

定義により、$LA$のサイズが$n\times n$でなければならないので、$L$は必ず$n \times n$行列でなければならず、$R$も同様である。$A$を正方行列に限定した理由は、$A^{-1}$が$A$の両側から掛けられる必要があるためである。同様に行列の積は交換可能ではないため、左/右逆行列が両方存在する必要がある。実際に、任意の行列が左/右逆行列を持つ場合、これらは常に同じである。

性質

$A$と$B$を任意の$n \times n$正方行列としよう。すると、以下が成り立つ。

(a) $A$が左逆行列$L$と右逆行列$R$を持つ場合、これらは同じである。

$$ L=A^{-1}=R $$

(b) $A$の逆行列が存在する場合、それは一意である。

(c) $AB = I \iff BA = I$

(d) $A$と$B$を可逆行列としよう。すると、2つの行列の積$AB$も可逆であり、その逆行列は次の通りである。

$$ (AB)^{-1}=B^{-1}A^{-1} $$

(d’) 同じサイズの可逆行列の積も可逆であり、その逆行列はそれぞれの逆行列を逆順に掛けたものと同じである。つまり、$A_{1},A_{2},\dots,A_{n}$が可逆行列ならば、次が成り立つ。

$$ \left( A_{1}A_{2}\cdots A_{n} \right)^{-1} = A_{n}^{-1}\cdots A_{2}^{-1} A_{1}^{-1} $$

(e) $AB$が可逆ならば、$A$と$B$も可逆である。

(f) $A$が可逆ならば、転置も可逆であり、その逆行列は次の通りである。

$$ \left( A^{T} \right)^{-1} = \left( A^{-1} \right)^{T} $$


従って、(c) $\iff$ (d) であることがわかる。

証明

(a)

$n\times n$行列$A$が与えられたとしよう。$L$が$A$の左逆行列だとしよう。すると、下記の式が成り立つ。

$$ LA=I_{n} $$

$R$を$A$の右逆行列としよう。$R$を上記式の右辺に掛けると、次のようになる。

$$ LAR = I_{n}R =R $$

しかし、$R$は$A$の右逆行列であるため、$LAR=LI_{n}=L$が成り立つ。従って、上記の式は次のようになる。

$$ L=R $$

(b)

任意の正方行列$A$が異なる2つの逆行列$B$と$C$を持つと仮定しよう。それから下記の計算ができる。

$$ B=BI=B(AC)=(BA)C=IC=C $$

しかし、この結果は$B$と$C$が異なるという仮定に矛盾する。従って、仮定は誤りであり、逆行列が存在する場合、それは一意である。

(c)

一般性を失うことなく、$BA = I \implies AB = I$だけを証明しよう。$BA = I$と仮定しよう。これから式$A \mathbf{x} = \mathbf{0}$を考える。

$$ \begin{align*} A\mathbf{x} = \mathbf{0} &\implies B(A\mathbf{x}) = B \mathbf{0} \\ &\implies (BA)\mathbf{x} = \mathbf{0} \end{align*} $$

ここで、$BA = I$と仮定したので、$\mathbf{x} = \mathbf{0}$である。従って、$A \mathbf{x} = \mathbf{0}$は自明の解だけを持つ。

可逆行列の同値条件

$A$をサイズ$n\times n$の正方行列としよう。すると、以下の命題は全て同値である。

可逆行列の同値条件により、$A$は可逆である。従って、$A^{-1}$が存在し、

$$ BA = I \implies A(BA)A^{-1} = AIA^{-1} \implies AB = I $$

(d)

$A$と$B$をサイズ$n\times n$の可逆行列としよう。その時、$A^{-1}$と$B^{-1}$が存在する。まず、$B^{-1}A^{-1}$を$AB$の右に掛けてみよう。それは次のようになる。

$$ \begin{align*} (AB)(B^{-1}A^{-1}) &= ABB^{-1}A^{-1} \\ &= AI_{n}A^{-1} = AA^{-1} \\ &= I_{n}\end{align*} $$

左に掛けると、次のようになる。

$$ \begin{align*} (B^{-1}A^{-1})(AB) &= B^{-1}A^{-1}AB \\ &= B^{-1}I_{n}B = B^{-1}B \\ &= I_{n}\end{align*} $$

従って、$AB$は可逆行列であり、その逆行列は$B^{-1}A^{-1}$である。

(d')

これは**(d)**の帰結として成立する。

(e)

$AB$の逆行列を$C$としよう。すると、$ABC=I_{n}$が成り立つ。従って、(c)により、$A$は可逆であり、$A^{-1}=BC$が成り立つ。また、$CAB=I_{n}$であるため、$B$も可逆であり、$B^{-1}=CA$が成り立つ。

(f)

2つの行列を掛け合わせて単位行列が出るか確認すればよい。転置行列の性質により、次のようになる。

$$ A^{T} \left( A^{-1} \right)^{T} = \left( A^{-1} A \right) ^{T} = I^{T} = I $$

$$ \left( A^{-1} \right)^{T} A^{T} = \left( A A^{-1} \right)^{T} = I^{T} = I $$

従って

$$ \left( A^{T} \right)^{-1} = \left( A^{-1} \right)^{T} $$