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ベクトル空間の定義 📂線形代数

ベクトル空間の定義

定義1

空集合ではない集合 VV の要素が二つの演算 加算additionスカラー乗算scalar multiplicationに対して下記の10個の規則を満たす時、VV2 F\mathbb{F}に対するベクトル空間vector spaceまたはF\mathbb{F}-ベクトル空間と呼び、VVの要素をベクトルvectorという。


u,v,wV\mathbf{u}, \mathbf{v}, \mathbf{w} \in Vk,lFk, l \in \mathbb{F}に対して、

(A1) u,v\mathbf{u}, \mathbf{v}VVの要素であればu+v\mathbf{u}+\mathbf{v}VVの要素である。

(A2) u+v=v+u\mathbf{u} + \mathbf{v} = \mathbf{v} + \mathbf{u}

(A3) (u+v)+w=u+(v+w)(\mathbf{u}+\mathbf{v})+\mathbf{w}=\mathbf{u}+(\mathbf{v}+\mathbf{w})

(A4) VV内の全てのu\mathbf{u}に対して、u+0=0+u=u\mathbf{u} + \mathbf{0} = \mathbf{0} + \mathbf{u} = \mathbf{u}を満たす0\mathbf{0}VV内に存在する。この時0\mathbf{0}零ベクトルzero vectorと呼ぶ。

(A5) VV内の全てのu\mathbf{u}に対してu+v=v+u=0\mathbf{u} + \mathbf{v} = \mathbf{v} + \mathbf{u} = \mathbf{0}を満たすv\mathbf{v}VV内に存在する。この時v\mathbf{v}を**u\mathbf{u}の負**negative of u\mathbf{u}と呼び、v=u\mathbf{v} = -\mathbf{u}と表記する。

(M1) u\mathbf{u}VVの要素であればkuk \mathbf{u}VVの要素である。

(M2) k(u+v)=ku+kvk(\mathbf{u} + \mathbf{v})=k\mathbf{u} + k\mathbf{v}

(M3) (k+l)u=ku+lu(k+l)\mathbf{u}=k\mathbf{u}+ l\mathbf{u}

(M4) k(lu)=(kl)(u)k(l\mathbf{u})=(kl)(\mathbf{u})

(M5) 1F1\in \mathbb{F}に対して、1u=u1\mathbf{u} = \mathbf{u}

説明

  • 線形空間linear spaceという言葉も使われる。

当然ながらスカラー(体)が実数である必要はない。特にF=R\mathbb{F} = \mathbb{R}の場合を実ベクトル空間real vector spaceと呼び、F=C\mathbb{F} = \mathbb{C}の場合を複素ベクトル空間complex vector spaceと呼ぶ。

数学部の線形代数学では主にRn\mathbb{R}^{n}Cn\mathbb{C}^{n}を扱う。Rn\mathbb{R}^{n}は実数nn個の順序対を要素とするベクトル空間を意味し、即ちnn次元ユークリッド空間を意味し、具体的にR3\mathbb{R}^{3}は高校数学、微分積分学でよく見た3次元空間を意味する。

ベクトル空間となる集合は様々ある。関数の集合もベクトル空間となり得て、これを関数空間と呼ぶ。

物理学では大きさと方向があるものをベクトルと呼ぶ。その概念を一般化したものが線形代数学のベクトルである。例えば大きさがm×nm\times nの実数行列を集めた集合Mm×n(R)M_{m\times n}(\mathbb{R})を考えると、Mm×n(R)M_{m\times n}(\mathbb{R})は上記の10個の規則を全て満たすことがわかる。したがって同じ大きさの行列を集めた集合はベクトル空間となり、各々の行列はその中でのベクトルとなる。このような抽象的なベクトル空間に初めて接したならば、行列もベクトルだという事実に驚くかもしれないが、これまでに座標空間のベクトルをどのように表記していたかを考えれば驚くこともない。

ある集合がベクトル空間であるかどうかを判断するには、上記の定義を満たしているか一つ一つ確かめればよい。一見ベクトル空間に思えるけれどもそうでない場合もあり、また一見ベクトル空間でなさそうに思えるけれども実はベクトル空間である場合もある。直感とは全く異なる場合があるので、問題を解く時は一つ一つしっかりと確認することが良い。また零ベクトル0\mathbf{0}とスカラー00は全く異なるものであるので、しっかり区別するようにしよう。通常、教科書ではベクトルは太字で表される。

定理1

VVをベクトル空間、u\mathbf{u}VVの要素とする。

(1a) VVの零ベクトルは唯一である。

(1b) u\mathbf{u}の負は唯一である。

証明

ベクトル空間の定義を利用した証

明である。

(1a)

0,0\mathbf{0},\mathbf{0}^{\prime}VVの零ベクトルであるとする。するとベクトル空間の定義により次が成立する。

0=0+0by (A4)=0+0by (A2)=0by (A4) \begin{align*} \mathbf{0} &= \mathbf{0} + \mathbf{0}^{\prime} && \text{by (A4)} \\ &= \mathbf{0}^{\prime} + \mathbf{0} && \text{by (A2)} \\ &= \mathbf{0}^{\prime} && \text{by (A4)} \end{align*}

したがって、二つの零ベクトルは互いに等しい。

(1b)

v,v\mathbf{v}, \mathbf{v}^{\prime}u\mathbf{u}の負であるとする。するとベクトル空間の定義により次が成立する。

v=v+0by (A4)=v+(u+v)by (A5)=(v+u)+vby (A3)=0+vby (A5)=vby (A4) \begin{align*} \mathbf{v} &= \mathbf{v} + \mathbf{0} && \text{by (A4)} \\ &= \mathbf{v} + \left( \mathbf{u} + \mathbf{v}^{\prime} \right) && \text{by (A5)} \\ &= \left( \mathbf{v} + \mathbf{u} \right) + \mathbf{v}^{\prime} && \text{by (A3)} \\ &= \mathbf{0} + \mathbf{v}^{\prime} && \text{by (A5)} \\ &= \mathbf{v}^{\prime} && \text{by (A4)} \end{align*}

したがって、u\mathbf{u}の二つの負は互いに等しい。

定理2

VVをベクトル空間、u\mathbf{u}VVの要素、kkをスカラーとする。

(2a) 0u=00 \mathbf{u} = \mathbf{0}

(2b) k0=0k \mathbf{0} = \mathbf{0}

(2c) (1)u=u(-1) \mathbf{u} = -\mathbf{u}

(2d) もしku=0k \mathbf{u} = \mathbf{0}であれば、k=0k = 0u=0\mathbf{u} = \mathbf{0}である。

証明

ベクトル空間の定義を利用した証明である。

(2a)

0u=(0+0)u=0u+0uby (M3)    0u+(0u)=0u+0u+(0u)    0=0uby (A5) \begin{align*} && 0\mathbf{u} &= (0 + 0)\mathbf{u} \\ && &= 0\mathbf{u} + 0\mathbf{u} &&\text{by (M3)} \\ & & \\ \implies && 0\mathbf{u}+(-0\mathbf{u}) &= 0\mathbf{u} + 0\mathbf{u} +(-0\mathbf{u}) \\ \implies && \mathbf{0} &= 0\mathbf{u} &&\text{by (A5)} \end{align*}

(2b)

k0=k(0+0)by (A4)=k0+k0by (M2)    k0+(k0)=k0+k0+(k0)    0=k0by (A5) \begin{align*} && k\mathbf{0} &= k(\mathbf{0} + \mathbf{0}) &&\text{by (A4)} \\ && &= k\mathbf{0} + k\mathbf{0} &&\text{by (M2)} \\ & & \\ \implies && k\mathbf{0}+(-k\mathbf{0}) &= k\mathbf{0} + k\mathbf{0} +(-k\mathbf{0}) \\ \implies && \mathbf{0} &= k\mathbf{0} &&\text{by (A5)} \end{align*}

(2c)

u+(1)u=1u+(1)uby (M5)=(1+(1))uby (M3)=0u=0by (a2) \begin{align*} \mathbf{u} + (-1)\mathbf{u} &= 1 \mathbf{u} + (-1)\mathbf{u} &&\text{by (M5)} \\ &= \big( 1 + (-1) \big) \mathbf{u} &&\text{by (M3)} \\ &= 0 \mathbf{u} \\ &= \mathbf{0} &&\text{by (a2)} \end{align*}

すると**(A5)により(1)u(-1)\mathbf{u}u\mathbf{u}の負であり、(1b)**によりu\mathbf{u}の負は唯一であるため、

(1)u=u (-1)\mathbf{u} = -\mathbf{u}

(2d)

kkは必ず0000のどちらか一方の場合にのみ該当するので、二つの場合に分けて考える。

  • k=0k=0の場合

    結論を満たす。

  • k0k\ne 0の場合

    kk00でないため、kkで割ることができる。したがって

    ku=0    u=1k0=0by (2b) \begin{align*} && k \mathbf{u} &= \mathbf{0} \\ \implies && \mathbf{u} &= \frac{1}{k}\mathbf{0} \\ && &= \mathbf{0} && \text{by (2b)} \end{align*}

一緒に見る

抽象代数

下記の文書で述べられているFF-ベクトル空間は、実際に上記の文書のベクトル空間と何の差異もない。ただ視点が少し異なるだけで、線形代数学でのベクトル空間が直感的なユークリッド空間の抽象化であり、抽象代数学でのベクトル空間はそれを真の意味での’代数’として扱うことである。

逆にRR-モジュールはFF-ベクトル空間のスカラー体FFスカラー環RRに一般化することに意義があり、したがってFF-ベクトルフィールドの歴史と意味に関心がないネーミングでそのアイデンティティを示している。群GGの立場から見れば、環RRと新しい演算μ\muが加えられたことであるため、その逆も加群加群である。


  1. Howard Anton, Elementary Linear Algebra: Applications Version (12th Edition, 2019), p202-203 ↩︎

  2. 体をよくわからなければ、簡単にF=R\mathbb{F}=\mathbb{R}またはF=C\mathbb{F}=\mathbb{C}と考えればよい。 ↩︎