連立方程式で理解するランクと退化次数
歴史的背景
歴史的には、行列が考案された背景そのものが連立方程式をより簡単で便利に表記するためであった。例えば連立方程式
$$ \begin{cases} 2x_{1} & + & x_{2} & + & x_{3} =& 0 \\ & x_{2} & =& 0 \end{cases} $$
をよく見ると、同じ変数を何度も書かなければならないという不便さがある。これを行列で表すと
$$ \begin{bmatrix} 2 & 1 & 1 \\ 0 & 1 & 0 \end{bmatrix} \begin{bmatrix} x_{1} \\ x_{2} \\ x_{3} \end{bmatrix} = \begin{bmatrix} 0 \\ 0 \end{bmatrix} $$
のように整った形ですっきりと表すことができる。数式を簡単に表現し容易に操作する技術の重要性は言うまでもないだろう。連立方程式が大きく複雑になるほどこうしたテクニックは有用さを増していき、行列代数が発展していく。そして線形構造に対する探求と空間の一般化がなされ、線形代数という名で完成したのである。
理解しにくい理由
ところが学ぶ立場からすると、列空間や零空間などの概念とともに抽象化されていく線形代数についていくのは難しいことがある。確かに最初は$(1,0, \cdots , 0)$のような形のベクトルだったのに、ある瞬間から行列はどこかへ消え、新しい概念が押し寄せてくるからである。
例えば$\dim \mathcal{C} (A) = \text{rank}(A)$や$\dim \mathcal{N} (A) = \text{nullity} (A)$のような表現は書くにはすっきりしているが、意味を理解するのは難しい。ここで再び連立方程式の概念に戻ってみると、こうした$\text{rank}$と$\text{nullity}$を簡単に理解することができる。
例
上で例に挙げた
$$ \begin{cases} 2x_{1} & + & x_{2} & + & x_{3} =& 0 \\ & x_{2} & =& 0 \end{cases} $$
を見ると、式は2個なのに未知数は3個である。知っての通り、連立方程式の解が自明でなく、かつ唯一の解を持つのは、式の個数と未知数の個数が等しいときだけである。したがって$x_2 = 0$であり$2 x_1 = - x_3$となって、2個の変数だけで解を表現できるようになる。こうした意味で、解を表現するとき$\text{rank}$を「実際に使う変数の個数」、$\text{nullity}$を「使わない変数の個数」と考えてみよう。
$A \in \mathbb{R}^{ m \times n }$に対して、
$$ \begin{align*} \text{rank} (A) + \text{nullity} (A) =& \dim \mathbb{R}^{n} = n \\ \text{rank} (A^{T}) + \text{nullity} (A^{T}) =& \dim \mathbb{R}^{m} = m \end{align*} $$
定理を使って得られた説明と一致するか一度確認してみよう。
$$ A = \begin{bmatrix} 2 & 1 & 1 \\ 0 & 1 & 0 \end{bmatrix} $$ とすると$A \in \mathbb{R}^{ 2 \times 3 }$である。
$$ \dim \mathcal{C} (A) = \dim \text{span} \left\{ \begin{bmatrix} 2 \\ 1 \\ 1 \end{bmatrix} , \begin{bmatrix} 0 \\ 1 \\ 0 \end{bmatrix} \right\} = 2 $$
であり
$$ \dim \mathcal{N} (A) = \dim \text{span} \left\{ \begin{bmatrix} 1 \\ 0 \\ -2 \end{bmatrix} \right\} = 1 $$
であるので
$$ \text{rank} (A) + \text{nullity}(A) = 2 + 1 = 3 = \dim (\mathbb{R}^{3}) $$
となる。
