ノルムの同値関係
📂線形代数ノルムの同値関係
定義
ベクトル空間 V 上で定義された二つの ノルム ∥⋅∥α,∥⋅∥β と任意のベクター v∈V に対して
c∥v∥α≤∥v∥β≤C∥v∥α
を満たす 定数 c,C>0 が存在する場合、二つのノルムは等価であると定義する。
定理
不等式の保存
- [1]: ベクトル空間 V で定義されたノルム ∥⋅∥α と ∥⋅∥β が等価である場合、全ての x,y∈V に対して以下が成り立つ。
∥x∥α≤∥y∥α⟹∥x∥β≤∥y∥β
複素空間で定義されたノルムの等価性
- [2]: ベクトル空間 Cn で定義された全てのノルムは等価である。
説明
二つの ノルム が等価であるとは、ノルムを用いた不等式を扱うときに、異なるノルムを使用しても問題ないということである。自然に、使いにくいノルムを使いやすいノルムに変えて使うような活用が考えられる。
数式的な表現を解くと、あるノルムを伸ばしたり縮めたりして、別のノルムより大きくも小さくもできる場合、等価関係が成り立つ。この定義はかなり直感的といえるだろう。ノルムの概念が長さから来ていることを考えると、解釈しやすい。長さを測る基準単位がどんなにあっても、伸ばしたり縮めたりすれば、比較自体には使えると考えると便利だろう。
証明
[1]
等価なノルム ∥⋅∥α と ∥⋅∥β が与えられたとき、∥x∥α≤∥y∥α とする。
∥x∥β<∥y∥β と仮定すると、等価の定義により、全ての x,y∈V に対して以下を満たす Cy,Cx がそれぞれ存在しなければならない。
∥x∥α≤=<≤∥y∥αCy∥y∥βCy∥x∥βCyCx∥x∥α
しかし、y=0 の場合 x=0 であるから
0=∥x∥α<CyCx∥x∥α=0
であり、上記の式を満たす Cy、Cx が存在しないため、∥⋅∥α と ∥⋅∥β が等価であるという前提に矛盾する。したがって、以下の結果を得る。
∥x∥α≤∥y∥α⟹∥x∥β≤∥y∥β
■
[2]
戦略: 最大最小値定理を利用して、c と C の存在を一度に示す。
S={z:∥z∥2=1} に対して、関数 h:S→R を h(z):=∥z∥α∥z∥β のように定義しよう。h はコンパクトな S 上で連続であるため、最大最小値定理 により、c≤h(z)≤C を満たす c,C が存在するので、次の式が成立する。
c∥z∥α≤∥z∥β≤C∥z∥α
一方、h はノルムの比率で定義された関数であるから h(z)>0 であり、その最小値もまた c>0 でなければならない。よってノルム ∥⋅∥α と ∥⋅∥β は等価である。
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ユークリッド空間 Rn が Cn の部分空間であるため、その実用性が高いことは言うまでもない。さらに一般化された事実として、有限次元ベクトル空間で定義されたノルムは全て等価である。