正定行列の主対角成分の性質
定理
正定値行列 $A = \left( a_{ij} \right) \in \mathbb{C}^{n \times n}$ が与えられていると仮定する。
主対角成分の符号
$A$ の 主対角成分 $a_{ii}$ の符号は $A$ の符号と同じである。
- $A$ が正定値の場合 $a_{ii} > 0$
- $A$ が正準定値の場合 $a_{ii} \ge 0$
- $A$ が負定値の場合 $a_{ii} < 0$
- $A$ が負準定値の場合 $a_{ii} \le 0$
対称実数行列における $0$ な主対角成分
実数で成り立つ準定値行列 $A \in \mathbb{R}^{n \times n}$ が 対称行列 であると仮定する。 $A$ の主対角成分 $a_{ii}$ が $0$ であれば $i$ 番目の行と列は 零ベクトル である。
説明
この性質は ハーグ=クレイグの定理の証明 に使用される。
証明
一般性を失わず、 $A$ が正準定値であると仮定する。
行列 $A$ が正準定値であるということは、すべての ベクトル $\mathbf{x} \in \mathbb{R}^{n}$ に対して $\mathbf{x}^{T} A \mathbf{x} \ge 0$ であるから、 標準基底ベクトル $x = \mathbf{e}_{1} , \cdots , \mathbf{e}_{n}$ に対しても 二次形式が $0$ 以上でなければならない。 $\mathbf{e}_{i}^{T} A \mathbf{e}_{i} \ge 0$ なので、 $A$ のすべての主対角成分 $\left( A \right)_{ii}$ も $0$ 以上でなければならない。
ここで $A$ が $A \in \mathbb{R}^{n \times n}$ であり対称行列であると仮定し、ある実数 $x$ とインデックス $j \ne i$ に対し $\mathbf{x} := \mathbf{e}_{i} + x \mathbf{e}_{j}$ とする。もし $a_{ii} = 0$ が $0$ であれば、 $\mathbf{x}^{T} A \mathbf{x} \ge 0$ なので次が成り立つ。 $$ \begin{align*} & \mathbf{x}^{T} A \mathbf{x} \\ =& \left( \mathbf{e}_{i} + x \mathbf{e}_{j} \right)^{T} A \left( \mathbf{e}_{i} + x \mathbf{e}_{j} \right) \\ =& \mathbf{e}_{i}^{T} A \mathbf{e}_{i} + x \mathbf{e}_{i}^{T} A \mathbf{e}_{j} + x \mathbf{e}_{j}^{T} A \mathbf{e}_{i} + x^{2} \mathbf{e}_{j}^{T} A \mathbf{e}_{j} \\ =& a_{ii} + x a_{ij} + x a_{ji} + x^{2} a_{jj} \\ =& 2 x a_{ij} + x^{2} a_{jj} \\ \ge & 0 \end{align*} $$
解の公式: 二次方程式 $ax^{2}+bx+c=0$(ただし、$a\neq 0$)に対して $$ x=\dfrac{ -b\pm \sqrt { b^{2}-4ac } }{2a} $$
$A$ が正準定値行列であると仮定したので $a_{jj} \ge 0$ である。 $2 x a_{ij} + x^{2} a_{jj} \ge 0$ というのはこの二次関数 $f(x) = a_{jj} x^{2} + 2 a_{ij} x$ のグラフが 下に凸な放物線 で $x$-軸に接しないか一点でのみ交わること、つまり判別式を見た場合 $b^{2} - 4ac \le 0$ であることを意味する。 $f$ を判別式に代入してみると次のようになる。 $$ \left( 2 a_{ij} \right)^{2} - 4 \cdot a_{jj} \cdot 0 \le 0 $$ これによれば $4 a_{ij}^{2} \le 0$ を満たす場合は $a_{ij} = 0$ だけである。これは $j$ の選択に関係なく成り立つので $a_{i1} = \cdots = a_{in} = 0$ であり、 $A$ は対称行列であるから $a_{1i} = \cdots = a_{ni} = 0$ でもある。
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