フォン・ミーゼス分布
定義 1 2
平均方向mean Direction $\mu \in \mathbb{R}$ と 集中concentration $\kappa > 0$ に関して以下の確率密度関数を持つ連続確率分布 $\text{vM} \left( \mu , \kappa \right)$ を フォン・ミーゼス分布von Mises distributionと言う。 $$ f(x) = {{ 1 } \over {2 \pi I_{0} \left( \kappa \right) }} \exp \left( \kappa \cos \left( x - \mu \right) \right) \qquad , x \in \mathbb{R} \pmod{2 \pi} $$
- $I_{\nu}$ は$\nu$次変形第一種ベッセル関数であり、このような複雑な関数が使われる理由は変形第一種ベッセル関数が方向統計学に登場する理由のポストを参照してください。
説明
フォン・ミーゼス分布は方向統計学で出会う最もシンプルな分布であり、円 $S^{1}$上でサンプリングされたデータを表す。円形正規分布circular Normal distribution や ティホノフ分布tikhonov distributionとも呼ばれるものである。
式において、指数関数 $\exp$からのサンプリング確率は$\infty$ に近いほど高く、$-\infty$ に近いほど低くなり、これは$\cos \left( x - \mu \right)$ によって自然に決まる。$x \approx \mu$、すなわち平均方向に近い場所は$\cos \approx 1$ となり、よく引かれるが、逆方向の場合は非常に低い確率を持つ。
集中 $\kappa$ は散布度の反対で、高いほど平均方向の確率が高くなる。
フォン・ミーゼス分布の一般化には、次元を上げたフォン・ミーゼス・フィッシャー分布、トーラスに拡張した二変量フォン・ミーゼス分布、8つのパラメーターを使用するフォン・ミーゼス・ビンガム分布fisher-Bingham distribution2、そして5つのパラメーターだけを使用するケント分布などが知られている。
定理
以下はフォン・ミーゼス分布を円形正規分布と呼ぶことが適切である理由に関するまとめである。$\kappa$ が十分に大きいという仮定は、$\mu$ の近くに確率が集中していることを意味し、$S^{1}$ を広範囲にわたって使わずに$\mu$ の近傍だけから抽出することで、その接線上の正規分布とほぼ同じになる。これはLAN(Local Asymptotic Normality)とも言われる。
円形正規分布
十分に大きい$\kappa = \sigma^{-2}$ に対して、$f(x)$ は正規分布の確率密度関数に近似する。 $$ f(x) \approx {{ 1 } \over { \sigma \sqrt{2 \pi} }} \exp \left[ {{ - \left( x - \mu \right)^{2} } \over { 2 \sigma^{2} }} \right] $$
証明
コサイン関数のテイラー展開: $$ \cos x = \frac { 1 }{ 0! }-\frac { { x } ^{ 2 } }{ 2! }+\frac { { x } ^{ 4 } }{ 4! }-\frac { { x } ^{ 6 } }{ 6! }+ \cdots $$
$\kappa$ が十分に大きいと仮定すると、$\mu$ の近傍でのコサインのテイラー展開の第3項以降を落として得られる。
$$ \begin{align*} f(x) = & {{ 1 } \over {2 \pi I_{0} \left( \kappa \right) }} \exp \left( \kappa \cos \left( x - \mu \right) \right) \\ \approx& {{ 1 } \over {2 \pi I_{0} \left( \kappa \right) }} \exp \left( \kappa \left[ 1 - {{ \left( x - \mu \right)^{2} } \over { 2 }} \right] \right) \\ =& {{ 1 } \over {2 \pi I_{0} \left( \kappa \right) }} e^{\kappa} \exp \left( - {{ \left( x - \mu \right)^{2} } \over { 2 \sigma^{2} }}\right) \end{align*} $$
一方で、$\pi = 3.141592 \cdots$ は $\kappa = 1$ と見なしても標準正規分布の$z_{0.99} = 2.58 \cdots$ よりはるかに大きいため、$\kappa$ が十分に大きいという仮定の下で、$I_{0} (\kappa)$ も $$ \begin{align*} 2\pi I_{0} (\kappa) =& \int_{-\pi}^{\pi} \exp \left( \kappa \cos \left( x - \mu \right) \right) dx \\ =& \int_{-\pi}^{\pi} \exp \left( \kappa \cos t \right) dt \\ \approx& \int_{-\infty}^{\infty} \exp \left( \kappa - {{ t^{2} } \over { 2 \sigma^{2} }}\right) dt \\ = & e^{\kappa} \int_{-\infty}^{\infty} \exp \left( - {{ t^{2} } \over { 2 \sigma^{2} }}\right) dt \\ = & \sigma \sqrt{2 \pi} e^{\kappa} \int_{-\infty}^{\infty} {{ 1 } \over { \sigma \sqrt{2 \pi} }} \exp \left( - {{ t^{2} } \over { 2 \sigma^{2} }}\right) dt \\ = & \sigma \sqrt{2 \pi} e^{\kappa} \end{align*} $$ 次の近似式を得る。 $$ f(x) \approx {{ 1 } \over { \sigma \sqrt{2 \pi} }} \exp \left[ {{ - \left( x - \mu \right)^{2} } \over { 2 \sigma^{2} }} \right] $$
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Kim. (2019). Small sphere distributions for directional data with application to medical imaging. https://doi.org/10.1111/sjos.12381 ↩︎