抽象単体複合体の定義
定義 1
任意の集合 $X$ が与えられたとする。
- $X$ の冪集合 $2^{X}$ の有限な部分集合の中で次を満たす複体 $A \subset 2^{X}$ を**(抽象的な)シンプレクス**abstract Simplicial Complexという。 $$ \alpha \in A \land \beta \subset \alpha \implies \beta \in A $$
- 複体 $A$ の要素 $\alpha \in A$ をシンプレックスsimplicesと呼ぶ。
- シンプレックス $\alpha$ の次元dimension $\dim$ は、$\alpha$ の基数から $1$ を引いた値で定義される。 $$ \dim \alpha := | \alpha | - 1 $$ 複体 $A$ の次元は、$A$ のすべてのシンプレックスの次元の中の最大値として定義される。 $$ \dim A := \max_{\alpha \in A} \left( \dim \alpha \right) $$
- シンプレックス $\alpha$ の空集合ではない真部分集合 $\beta \subsetneq \alpha$ を$\alpha$ の面faceと呼ぶ。
- 次のように計算される $A$ のすべてのシンプレックスの和集合 $V(A)$ を$A$ の頂点集合vertex setと言う。 $$ V(A) := \bigcup_{\alpha \in A} \alpha $$
- 複体の部分集合 $B \subset A$ が複体である場合、部分複体subcomplexと言う。
- 次を満たす全単射 $b : V(A) \to V(B)$ が存在する場合、二つの複体 $A, B$ が同型isomorphicであるという。 $$ \alpha \in A \iff b (\alpha) \in B $$
- (幾何学的な)シンプレクス複体 $K$ について、それの構成を全て無視して頂点間の関係のみを保持して得られた(抽象)シンプレクス複体 $A$ を$K$ の頂点スキーマvertex Schemeと言い、この時$K$ を$A$ の幾何学的実現geometric Realizationと言う。
説明
抽象的なシンプレクス複体はその名の通り、幾何学的な意味を省いたシンプレクス複体の抽象化である。数学者の視点から見れば、凸包などの条件はただの面倒くさい制約に過ぎない。
例えば、$X = \mathbb{N}$ を考えた場合 $$ \begin{align*} T :=& \left\{ \left\{ 1 \right\}, \left\{ 2 \right\} , \left\{ 3 \right\}, \left\{ 4 \right\} , \right. \\ & \left\{ 1,2 \right\}, \left\{ 2,3 \right\}, \left\{ 3,4 \right\}, \left\{ 4,1 \right\}, \left\{ 2,4 \right\} \\ & \left. \left\{ 1,2,4 \right\} , \left\{ 2,3,4 \right\} \right\} \end{align*} $$ 抽象的なシンプレクス複体のすべての条件を満足し、この場合、ユークリッド空間 $\mathbb{R}$ などの幾何学的な意味を全く気にする必要はない。$T$ は$0$次元のシンプレックス$4$ 個、$1$次元のシンプレックス$5$ 個、$2$次元のシンプレックス$2$個を持ち、その複体自体は$2$次元であり、頂点集合として$V(T) = \left\{ 1,2,3,4 \right\}$ を持つ。一方、幾何学的シンプレクス複体 $G$ が与えられた場合、$T$ を$G$ の頂点スキーマとして考えても問題ない。
Edelsbrunner, Harer. (2010). Computational Topology An Introduction: p63~64. ↩︎