計算トポロジーにおける境界行列
説明
定義では単体複合体について述べられているが、以下の説明で抽象単体複合体のみ言及される理由は、境界行列について調べたかっただけの人の視点で見ると、単体複合体の抽象化があまりに過剰だからだ。概念的には、どちらの定義を受け入れても全く問題なく、抽象単体複合体の方が想像しやすく、計算しやすい。
例
$$ K = \left\{ \left\{ 1 \right\}, \left\{ 2 \right\} , \left\{ 3 \right\} , \left\{ 4 \right\}, \left\{ 1,2 \right\} , \left\{ 2,3 \right\} , \left\{ 3,1 \right\} , \left\{ 1,4 \right\} , \left\{ 1,2,3 \right\} \right\} $$ 定義だけを見ても境界行列が何かわかるわけがなく、例を一つ見ればすぐに感覚がつかめる。例えば、このような抽象単体複合体$K$が与えられているとしたら、$p=2$番目の境界行列は $$ \partial_{2} = \begin{matrix} & \begin{matrix} 123 \end{matrix} \\ \begin{matrix} 12 \\ 23 \\ 31 \\ 14 \end{matrix} & \begin{bmatrix} 1 \\ 1 \\ 1 \\ 0 \end{bmatrix} \end{matrix} $$ で、$p=1$番目の境界行列は $$ \partial_{1} = \begin{matrix} & \begin{matrix} 12 & 23 & 31 & 14 \end{matrix} \\ \begin{matrix} 1 \\ 2 \\ 3 \\ 4 \end{matrix} & \begin{bmatrix} 1 & 0 & 1 & 1 \\ 1 & 1 & 0 & 0 \\ 0 & 1 & 1 & 0 \\ 0 & 0 & 0 & 1 \end{bmatrix} \end{matrix} $$ である。$\partial_{p}$は$n_{p} \times n_{p-1}$サイズの行列で、もう少し直感的に言うと、行に$(p-1)$-単体を、列に$p$-単体を並べ、その包含関係に応じて$1$または$0$で成分を与えられたブーリアンboolean行列だ。
意味
抽象化に問題がないなら、ホモロジーについてある程度理解しているとして、以下の説明を読んでみよう。
境界行列の定義自体は単純だが、実際に持つ意味や用途はそれよりはるかに深く、多岐にわたる。抽象単体複合体$K$によって構成される単体ホモロジー群を考えた時、成分の値自体を離れて、その中にある意味自体が、その境界ホモモルフィズム$\partial_{p}$が$p$-チェインを$(p-1)$次元に送ること、つまりホモモルフィズムの変数置換を表した行列だ。