デルタ-コンプレックスの定義
定義 1
- アフィン独立な $v_{0}, v_{1} , \cdots , v_{n} \in \mathbb{R}^{n+1}$ の凸包を $n$-シンプレックス$n$-simplex $\Delta^{n}$ と言い、ベクター $v_{k}$ を 頂点vertexと呼ぶ。数式で示すと以下の通り。 $$ \Delta^{n} := \left\{ \sum_{k} t_{k} v_{k} : v_{k} \in \mathbb{R}^{n+1} , t_{k} \ge 0 , \sum_{k} t_{k} = 1 \right\} $$
- $\Delta^{n}$ からひとつの頂点が取り除かれて作られた $n-1$-シンプレックス $\Delta^{n-1}$ を $\Delta^{n}$ の 面faceと言い、$\Delta^{n}$ のすべての面の合併を 境界boundaryと言って、$\partial \Delta^{n}$ で示す。
- シンプレックスの内部 $\left( \Delta^{n} \right)^{\circ} := \Delta^{n} \setminus \partial \Delta^{n}$ を オープンシンプレックスopen Simplexと呼ぶ。
位相空間 $X$ 上の $\Delta$-コンプレックス構造$\Delta$-Complex Structureとは、インデックス $\alpha$ に依存する $n := n(\alpha)$ を持ち、次の三つの条件を満たす写像 $\sigma_{\alpha} : \Delta^{n} \to X$ の集合である。
- (i): $\sigma_{\alpha}$ のオープンシンプレックス $\left( \Delta^{n} \right)^{\circ}$ での制限関数 $\sigma_{\alpha} | \left( \Delta^{n} \right)^{\circ}$ は単射であり、$X$ の各点は $\sigma_{\alpha} | \left( \Delta^{n} \right)^{\circ}$ のイメージのちょうど一つに含まれる。
- (ii): $\sigma_{\alpha}$ の $\Delta^{n}$ の一つの面での制限関数は $\sigma_{\beta} : \Delta^{n-1} \to X$ の一つである。
- (iii) 連続性: すべての $\sigma_{\gamma}$ は連続関数でなければならない。つまり、$A \subset X$ が $X$ で開集合であることは、すべての $\sigma_{\alpha}$ の定義域 $\Delta^{n}$ で $\sigma_{\gamma}^{-1} (A)$ が開集合であることと同義である。
説明
注意点
ここで定義されるものが正確にコンプレックスではなく コンプレックス構造であり、そしてそれがただの「写像の集合」であることを理解することが重要である。代数学や位相学無しでこの集合だけを持っていても、ほとんど何もできない。定義で述べられている共通集合 $\sigma_{1} \cap \sigma_{2}$ などを考えることもできない。しかし、条件(ii)がその役割を果たすため、概念的にこれをコンプレックスと呼ぶことに問題はないが、詳細が必要な場合は議論することが重要である。
代数位相
これらの写像自体を一種の文字として見ることで、自由群におけるシンプリシャル・ホモロジー群を作り、探求していく。その時点になると、シンプレックス $\Delta^{n}$ や空間 $X$ などはもはや覚えていなくなるかもしれないが、そのためには一度はしっかりと勉強しておく必要がある。
例: トーラス
テキストだけでは理解が難しいのが普通だ。最もシンプルな例として、トーラス $X = T$ を見てみよう。
構成
実際、トーラスを作るには シンプレックスのコンプレックス、すなわちシンプリシャル・コンプレックスまで必要はなく、単に正方形 $S^{1} \times S^{1}$ で十分だが、意味ある代数的探究のためには、後で説明する $6$ 個の写像が必要になる。
これはトーラスを上から見た投影図である。$\sigma_{a}$, $\sigma_{b}$, $\sigma_{v}$ はトーラスを作る際のナイーブな方法である種の「骨格」の役割をする写像である。$\sigma_{b}$ は正方形を丸めて円筒を作り、$\sigma_{a}$ はその円筒の両端を繋げてドーナツを作る。この時、正方形の頂点は正確に一つの点に集まらなければならないが、$\sigma_{v}$ がその役割を果たす。
これはトーラスを横から見た投影図である。$\sigma_{U}$, $\sigma_{L}$ はフレームの間を埋める「面」と言える部分をマッピングしている。繰り返し強調するが、$\sigma_{c}$ はトーラスを考えた際には必ずしも必要ではないが、正方形を二つの三角形の合併と見た時に、その境界を担う写 pmである。
定義との比較
定義に基づいて、トーラス $T^{2}$ の $\Delta$-コンプレックス構造は、写像の集合 $$ \left\{ \sigma_{U}, \sigma_{L}, \sigma_{a}, \sigma_{b}, \sigma_{c}, \sigma_{v} \right\} $$ である。$2$-シンプリシャル・コンプレックスまで考慮したので、$\alpha$ に依存する $n$ は $n = 0,1,2$ まで考えれば良い。
- 条件(iii)の連続性は直感で十分理解できるはずだ。
- $\alpha = L, U$ に対する $n = n(\alpha)$ は $2$ だ。これらは正方形 $S^{1} \times S^{1}$ を面と呼べる $U^{\circ}, L^{\circ}$ の点を全て欠けることなく$X$ に送る。
- $U,L$ の面は、線分 $a$, $b$, $c$ であり、それに対応する $n = (\beta)$ は $1$ だ。これらは $U^{\circ}, L^{\circ}$ を囲む線分の端点を除いて$X$ に送る。条件(ii)がこのように満たされる。
- 最後に、$n = 0$ の時、$0$-シンプレックスである点 $v$ は $a$, $b$, $c$ の面であり、$\sigma_{v}$ によって$X$ の残りの最後の点に送られる。これまでの議論により、$X$ の各点は六つの写像の一つのイメージに正確に含まれるため、条件(i)が満たされることが確認できる。
Hatcher. (2002). Algebraic Topology: p103. ↩︎