伝染病の拡散モデルにおける基本再生産数とは?
定義
基礎感染再生産数basic Reproduction number は、伝染病が広がる速度を示す値であり。基本的に一人の感染者が他の人をどれほど感染させるかについての期待値として表される。
疫学コンパートメントモデル 1
微分方程式で表された力学系においては、ヤコビアン行列の実部が最も大きい固有値をと言う。
説明
定義だけを読んでも何のことか理解しにくいかもしれないが、具体的な値で考えればそんなに難しくない。COVID-19の場合はくらいと推定されているが2、簡単に言えば一人がコロナに感染すると、大体その患者が5.7人程度を感染させることが予想されるということだ。
数で感じ取れたなら、式的な理解もそれほど難しくない。であれば、一人が他の一人を感染させることも期待できない状況なので、伝染病はすぐに終わるだろうし、であればこれからも伝染病がよく広がるだろう。
だから、ヤコビアン行列の最も大きい固有値をと考えるのは非常に自然なことだ。これは、固有値がより大きい行列は行列変換において膨張であり、より小さい行列は収縮であるため、感染者数の増減と直接的に結びつくからだ。同じ理由でを大発生閾値outbreak Thresholdと呼ぶこともある。34
実質感染再生産数
は、介入されていない防疫政策の初期にのみ意味を持ち、該当疾患固有の拡散力を表すと同時に、その時のみの意味がある。実際には、接触を制御したり、ワクチンを投与するなど、様々な対応戦略と共に疾患の拡散速度は変わる。これに、全体集団において疾患にかかることができるsusceptible集団の比率を乗算して推定する数を実質感染再生産数effective Reproductive Ratioとも呼べる。式で以下のように表される。 極端な状況での意味を解釈してみると、伝染病がまさに広がり始めた時期にはとなり、基礎感染再生産数は実際に実質感染再生産数となる状況だろう。反対に、感染する人がほとんどいない状況を考えれば、がどれほど高くても、感染する人がいないために、疾患は拡散することができない。どんなに優れたリーダーでも、伝染病自体を変えるのは難しいが、優れた防疫政策を展開することは、このを以下に落として維持するということだ。
実質感染再生産数の算出方法は、モデルや前提に応じて大きく異なりうるが、基本的には上で見たような類似の概念が反映される。
Allen. (2006). An Introduction to Mathematical Biology: p71. ↩︎
Sanche, S. (2020). High Contagiousness and Rapid Spread of Severe Acute Respiratory Syndrome Coronavirus 2 ↩︎
Capasso. (1993). Mathematical Structures of Epidemic Systems: p116. ↩︎
Wei Wang. (2013). Asymmetrically interacting spreading dynamics on complex layered networks ↩︎