テイラー級数とマクローリン級数
ビルドアップ1
与えられた関数 $f$を冪級数で表現するとする。
$$ f(x) = c_{0} + c_{1}(x - a) + c_{2}(x - a)^{2} + c_{3}(x - a)^{3} + \cdots \qquad |x - a| \lt R \tag{1} $$
ここで、関数 $f$の冪級数表現を具体的に見つけることは、各項の係数 $c_{n}$を求めることと同じだ。まず両辺に $x = a$を代入すると、$c_{0}$を求めることができる。
$$ f(a) = c_{0} + c_{1}(a - a) + c_{2}(a - a)^{2} + c_{3}(a - a)^{3} + \cdots = c_{0} $$
$(1)$を微分すると、次のようになる。
$$ f^{\prime}(x) = c_{1} + 2c_{2}(x - a) + 3c_{3}(x - a)^{2} + \cdots \qquad |x - a| \lt R \tag{2} $$
両辺に$x = a$を代入すると、$c_{1}$を求めることができる。
$$ f^{\prime}(a) = c_{1} $$
再度 $(2)$を微分し、$x = a$を代入すると、
$$ f^{\prime\prime}(x) = 2c_{2} + 3 \cdot 2c_{3}(x - a) + \cdots \qquad |x - a| \lt R \tag{3} $$
$$ f^{\prime\prime}(a) = 2c_{2} $$
もう一度繰り返すと、
$$ f^{\prime\prime\prime}(x) = 3 \cdot 2c_{3} + 4 \cdot 3 \cdot 2c_{4}(x - a) + \cdots \qquad |x - a| \lt R $$
$$ f^{\prime\prime\prime}(a) = 3 \cdot 2c_{3} $$
このように続けて、$c_{n}$が次のように表現できることがわかる。
$$ f^{(n)}(a) = n! \cdot c_{n} \implies c_{n} = \frac{f^{(n)}(a)}{n!} $$
したがって、$(1)$は次のように表現される。
$$ f(x) = f(a) + \frac{f^{\prime}(a)}{1!}(x - a) + \frac{f^{\prime\prime}(a)}{2!}(x - a)^{2} + \frac{f^{\prime\prime\prime}(a)}{3!}(x - a)^{3} + \cdots = \sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x - a)^{n} $$
この時、右辺の級数を$f$のテイラー級数と定義する。
定義
無限に微分可能な関数$f$の$a$でのテイラー級数Taylor series of $f$ at $a$を次のように定義する。
$$ \sum_{n=0}^{\infty} \frac{f^{(n)}(a)}{n!}(x - a)^{n} = f(a) + \frac{f^{\prime}(a)}{1!}(x - a) + \frac{f^{\prime\prime}(a)}{2!}(x - a)^{2} + \frac{f^{\prime\prime\prime}(a)}{3!}(x - a)^{3} + \cdots $$
説明
特に$a = 0$での級数をマクローリン級数Maclaurin seriesと呼ぶ。
もし$f$が冪級数で表現されるなら、$f$と$f$のテイラー級数は同じだ。しかし、$f$のテイラー級数が常に$f$と同じとは限らない。特定の条件を満たせば$f$と$f$のテイラー級数が同じであることが証明されている。
$f$と$f$のテイラー級数が異なる例1
次のような関数$f$が与えられている。
$$ f(x) = \begin{cases} e^{-1/x^{2}} & x \neq 0 \\ 0 & x = 0 \end{cases} $$
級数の係数を求めるために$f^{\prime}(0)$を求めてみよう。
$$ \lim\limits_{h \to 0} \frac{f(0 + h) - f(0)}{h} = \lim\limits_{h \to 0} \frac{e^{-1/h^{2}} - 0}{h} = \lim\limits_{h \to 0} \frac{1}{h} \cdot e^{-1/h^{2}} $$
ここで、数式を整理しロピタルの定理を使うと、
$$ \lim\limits_{h \to 0} \frac{1}{h} \cdot e^{-1/h^{2}} = \lim\limits_{h \to 0} \dfrac{1/h}{e^{1/h^{2}}} = \lim\limits_{h \to 0} \dfrac{-1/h^{2}}{-2e^{1/h^{2}}/h^{3}} = \lim\limits_{h \to 0} \dfrac{h}{2e^{1/h^{2}}} = 0 $$
同じ方法で$n \in \mathbb{N}$について$f^{(n)} = 0$であることを示すことができる。したがって$f$のマクローリン級数は次のようになる。
$$ \sum\limits_{n = 0}^{\infty} \frac{f^{(n)}(0)}{n!}x^{n} = \sum\limits_{n = 0}^{\infty} \frac{0}{n!}x^{n} = 0 $$
しかし、明らかに$x \ne 0$について$f(x) \ne 0$ということから、$f$と$f$のマクローリン級数は同じではないことがわかる。