ARMAモデルの可逆性
定義 1
ARMAモデルでの 可逆性 とは、$AR(p)$ と $MA(q)$ が互いに表現できることを意味する。
例
一般的な $ARMA ( p , q)$ に対する式の展開ではないが、$AR(1)$ と $MA(1)$ の例を見てみよう。
自己回帰モデル $AR(1) \implies MA( \infty )$
$| \phi | < 1$ に対して、次の自己回帰モデル $AR(1)$ を考える。 $$ Y_{t} = \phi Y_{t-1} + e_{t} $$ $Y_{t-1}$ も $Y_{t-1} = \phi Y_{t-2} + e_{t-1}$ として表現できるので、 $$ \begin{align*} Y_{t} =& \phi ( \phi Y_{t-2} + e_{t-1} ) + e_{t} \\ =& \phi^2 Y_{t-2} + e_{t} + \phi e_{t-1} \\ =& \phi^2 ( \phi Y_{t-3} + e_{t-2} ) + e_{t} + \phi e_{t-1} \\ =& \phi^3 Y_{t-3} + e_{t} + \phi e_{t-1} + \phi^2 e_{t-2} \end{align*} $$ この過程を無限に再帰的に繰り返すと $\displaystyle \lim_{q \to \infty} \phi^{q} = 0$ になるので、 $$ Y_{t} = e_{t} + \phi e_{t-1} + \phi^2 e_{t-2} + \cdots $$ つまり、$AR(1) \implies MA( \infty )$ である。
移動平均モデル $MA(1) \implies AR( \infty )$
$| \theta | < 1$ に対して、次の移動平均モデル $MA(1)$ を考える。 $$ Y_{t} = e_{t} - \theta e_{t-1} $$ $e_{t-1}$ は $e_{t-1} = Y_{t-1} + \theta e_{t-2}$ として表現できるので、 $$ \begin{align*} e_{t} =& Y_{t} + \theta ( Y_{t-1} + \theta e_{t-2}) \\ =& Y_{t} + \theta Y_{t-1} + \theta^2 e_{t-2} \\ =& Y_{t} + \theta Y_{t-1} + \theta^2 ( Y_{t-2} + \theta e_{t-3}) \\ =& Y_{t} + \theta Y_{t-1} + \theta^2 Y_{t-2} + \theta^3 e_{t-3} \end{align*} $$ この過程を無限に再帰的に繰り返すと $\displaystyle \lim_{p \to \infty} \theta^{p} = 0$ になるので、 $$ Y_{t} = e_{t} - \theta Y_{t-1} - \theta^2 Y_{t-2} - \cdots $$ つまり、$MA(1) \implies AR( \infty )$ である。
定理
この展開に従えば、ARMAモデルは実際には自己回帰モデルとして表現でき、ARIMAモデルは差分が含まれたARMAモデルに過ぎず、ARIMAモデル自体が自己回帰モデルとして表現できることを意味する。 $MA ( \infty )$ ではなく $AR ( \infty )$ を考える理由は、現実に私たちが得られる時系列データが $y_{1} , \cdots , y_{t}$ に基づいているからである。このため、時系列関連パッケージの関数にも ‘ar’ だけが付いている場合がある。
実際に、可逆性自体が時系列分析を行う際に非常に重要な条件であるとは言えないが、これらの式を知っているかどうかは、モデルを理解し、診断する上で不可欠である。 $$ Y_{t} = e_{t} - \theta e_{t-1} $$
$$ Y_{t} = e_{t} - \theta Y_{t-1} - \theta^2 Y_{t-2} - \cdots $$ 上の式が下の式で表されることは特に注目すべき点である。 一見、$Y_{t}$ は直前の白色雑音からしか影響を受けないように見えるが、実際にはそれ以前のデータをすべて反映していることを式で示しているのである。
Cryer. (2008). Time Series Analysis: With Applications in R(2nd Edition): p79. ↩︎