ディラックのデルタ関数
定義
以下の二つの条件を満たす関数をディラックのデルタ関数という。
$$ \delta (x) = \begin{cases} 0, & x\neq 0 \\ \infty , & x=0 \end{cases} $$
$$ \int_{-\infty}^{\infty}{\delta (x) dx}=1 $$
説明1
$\delta(x)$は$x=0$で発散するので、実は関数ではない。これを数学的に厳密に記述することはできるが、当面この関数を計算しながら多く使うことになる多くの専攻の学部生が理解するのは容易ではない。計算上ではデルタ関数の奇妙な定義が大きな問題にならないので、正確な定義を理解せずに使い方そのものだけを知っておいても構わない。ちょうど$\dfrac{dy}{dx}$が実際には分数ではないが、これを分数と見て分子と分母を別々に操作しても連鎖法則などの結果がうまく合致するのと同じである。ただし発散する点があるので、計算するときは$\delta$が単独で使われることはなく、常に積分の中にあるときにのみ値を定められるという点だけ覚えておこう。
クロネッカーのデルタ $\delta_{ij}$はインデックスが同じときにのみ$1$の値をとるが、まるでディラックのデルタ関数の離散バージョンのようである。言い換えれば、ディラックのデルタ関数はクロネッカーのデルタの連続的なバージョンである。
$$ \delta_{ij} = \begin{cases} 1, & i = j \\ 0, & i \ne j \end{cases} $$
幾何学的意味

デルタ関数は上の図のように原点で無限に狭く高く突き出しながらも、グラフの下の面積は$1$であるスパイクとして描かれる。このような直観は、通常の関数からなる関数列の極限として具体化できる。高さが$n$で幅が$\dfrac{1}{n}$の長方形関数$R_{n}$と、高さが$n$で底辺が$\dfrac{2}{n}$の二等辺三角形関数$T_{n}$を考えよう。
$$ R_{n}(x) = \begin{cases} n, & |x| \le \dfrac{1}{2n} \\ 0, & \text{otherwise} \end{cases} \qquad T_{n}(x) = \begin{cases} n - n^{2} |x|, & |x| \le \dfrac{1}{n} \\ 0, & \text{otherwise} \end{cases} $$

$n$が大きくなるほど両方の関数はともにだんだん狭く高くなるが、グラフの下の面積はすべての$n$に対して$1$で一定である。
$$ \int_{-\infty}^{\infty} R_{n}(x) dx = n \cdot \frac{1}{n} = 1 \qquad \int_{-\infty}^{\infty} T_{n}(x) dx = \frac{1}{2} \cdot \frac{2}{n} \cdot n = 1 $$
したがって、極限$n \to \infty$では$x = 0$を除いたすべての場所で関数値が$0$になるのに、全体の積分は依然として$1$のまま残る。デルタ関数はまさにこの極限として想像できる対象である。
$$ \delta (x) = \lim_{n \to \infty} R_{n}(x) = \lim_{n \to \infty} T_{n}(x) $$
性質
$f$をデルタ関数ではない通常の関数としよう。$\delta (x)$は$x = 0$を除いたすべての場所で$0$なので、積$f(x) \delta (x)$では$f$の値のうち$f(0)$一つだけが生き残る。
(a) サンプリング性質sampling property: デルタ関数との積を積分すると、$f$から一点の値が抜き出される。
$$ f(x) \delta (x) = f(0) \delta (x) \implies \int_{-\infty}^{\infty} f(x) \delta (x) dx = f(0) \int_{-\infty}^{\infty} \delta (x) dx = f(0) $$
(b) 平行移動: スパイクを$x = a$に移した$\delta (x - a)$に対しても、サンプリング性質はそのまま成り立つ。
$$ \delta (x - a) = \begin{cases} 0, & x \neq a \\ \infty, & x = a \end{cases} \qquad \int_{-\infty}^{\infty} \delta (x - a) dx = 1 $$
$$ f(x) \delta (x - a) = f(a) \delta (x - a) \implies \int_{-\infty}^{\infty} f(x) \delta (x - a) dx = f(a) $$
(c) 偶関数、スケーリング: デルタ関数は偶関数であり、$a \neq 0$である定数倍に対して次が成り立つ。
$$ \delta (-x) = \delta (x) \qquad \delta (ax) = \frac{1}{|a|} \delta (x) $$
(d) 3次元デルタ関数: 位置ベクトル$\mathbf{r} = (x, y, z)$に対して各成分のデルタ関数の積として定義し、体積要素$d\tau = dx dy dz$に対する積分は$1$である。
$$ \delta^{3} (\mathbf{r}) = \delta (x) \delta (y) \delta (z) \qquad \int \delta^{3} (\mathbf{r}) d\tau = 1 $$
サンプリング性質もまた3次元でそのまま成り立つ。
$$ \int f( \mathbf{r} ) \delta^{3} (\mathbf{r} - \mathbf{a}) d\tau = f(\mathbf{a}) $$
応用
重力、電気力をはじめとする自然の基本的な力は、大きさが距離の2乗に反比例する逆2乗法則に従う。すなわち源が原点にあるとき、これらが作る場はベクトル関数$\dfrac{\hat{\mathbf{r}}}{r^{2}}$に比例する。このベクトル関数は原点からすべての方向へ伸びていく形なのでダイバージェンスが大きいように見えるが、いざ計算してみると$0$が出る。球座標系で半径成分$v_{r}$だけを持つベクトル関数のダイバージェンスは$\nabla \cdot \mathbf{v} = \dfrac{1}{r^{2}} \dfrac{\partial}{\partial r} \left( r^{2} v_{r} \right)$なので、次のようになる。
$$ \nabla \cdot \dfrac{\hat{\mathbf{r}}}{r^{2}} = \dfrac{1}{r^{2}} \frac{\partial}{\partial r} \left( r^{2} \cdot \dfrac{1}{r^{2}} \right) = \dfrac{1}{r^{2}} \frac{\partial}{\partial r} (1) = 0 $$
もちろん$\dfrac{\hat{\mathbf{r}}}{r^{2}}$は$r = 0$で定義されないので、正確に言えば$\nabla \cdot \dfrac{\hat{\mathbf{r}}}{r^{2}}$は$r \ne 0$であるすべての場所で$0$である関数である。一方、このダイバージェンスを原点が中心で半径が$R$の球$\mathcal{V}$に対して体積積分すると話が変わる。発散定理により体積積分は球の表面$\mathcal{S}$に対する面積分に変わり、表面上では$r = R$に固定されて微小面積ベクトルが$d\mathbf{a} = R^{2} \sin\theta d\theta d\phi \hat{\mathbf{r}}$なので、次を得る。
$$ \int_{\mathcal{V}} \nabla \cdot \dfrac{\hat{\mathbf{r}}}{r^{2}} dV = \oint_{\mathcal{S}} \dfrac{\hat{\mathbf{r}}}{R^{2}} \cdot d\mathbf{a} = \oint_{\mathcal{S}} \dfrac{\hat{\mathbf{r}}}{R^{2}} \cdot \left( R^{2} \sin\theta d\theta d\phi \hat{\mathbf{r}} \right) = \int_{0}^{\pi} \sin\theta d\theta \int_{0}^{2\pi} d\phi = 4\pi $$
この値は球の半径$R$に無関係である。球をいくら小さく縮めても積分は依然として$4\pi$であり、半径を限りなく大きくした全空間に対する積分もまた$4\pi$である。結局$\nabla \cdot \dfrac{\hat{\mathbf{r}}}{r^{2}}$は原点を除いたすべての場所で$0$なのに、積分すると$0$ではない一定の値が出るわけであり、これはまさにデルタ関数の性質である。ダイバージェンスのすべてが原点一点に集中しているのであり、3次元デルタ関数を使って次のように表せる。
$$ \nabla \cdot \dfrac{\hat{\mathbf{r}}}{r^{2}} = 4\pi \delta^{3}(\mathbf{r}) $$
これを用いれば、一見複雑に見える以下の積分も簡単に計算できる。$\mathcal{V}$が原点を含む領域であるとき、デルタ関数の性質により$r^{2} + 2$の位置には原点での値$0^{2} + 2$だけが生き残る。
$$ \begin{align*} \int_{\mathcal{V}} (r^{2} + 2) \nabla \cdot \dfrac{\hat{\mathbf{r}}}{r^{2}} dV &= \int_{\mathcal{V}} (r^{2} + 2) 4\pi \delta^{3}(\mathbf{r}) dV \\ &= 4\pi (0^{2} + 2) \int_{\mathcal{V}} \delta^{3}(\mathbf{r}) dV \\ &= 8\pi \end{align*} $$
David J. Griffiths. 기초전자기학(Introduction to Electrodynamics, 김진승 역) (4th Edition 2014), p49-56. ↩︎
