アトラクティングセットのベイスン
定義 1
空間$X$と関数$f,g : X \to X$のベクトルフィールドとマップが以下のように表されるとしよう。 $$ \dot{x} = f(x) \\ x \mapsto g(x) $$ $\phi (t, \cdot)$をベクトルフィールド$\dot{x} = f(x)$のフローとし、$g^{n}$をマップ$g$を$n$回適用したマップとする。以下のように定義された集合をアトラクティングセット$A$のベイシンと呼ぶ。
- ベクトルフィールド $$\displaystyle \bigcup_{t \le 0} \phi ( t, U )$$
- マップ $$\displaystyle \bigcup_{n \le 0} g^{n} ( U )$$
説明
ベイシンは私たちに馴染みのない言葉だが、定義そのものよりも概念を理解することが大切だ。
数学以外の分野でベイシンと呼ぶのは、上の写真のように凹んだ形の物や、山に囲まれた地形を意味する盆地程度だ。しかし、このような言葉は実際にベイシンを理解するのにかなり役立つ。
上のような凹面の洗面台に赤いビー玉を一つ置いたところを想像してみよう。ビー玉は重力に引かれて排水口の方へ動くだろう。運動エネルギーが残っていて排水口を通り過ぎるかもしれないが、最終的には排水口がある場所で止まる。洗面台は何もしなくても自然と水が排水口へ流れるように設計されているからだ。この意味で、排水口は洗面台の固定点、洗面台は排水口のベイシンになる。
もう少し抽象的にアプローチすると、上のような曲面上にランダムに球を一つ落とした場合、固定点は正確に三つだ。$\color{red}{b}$に正確に落とせば左にも右にも動く理由がなく、$\color{green}{a}$と$\color{green}{c}$に落とせば、これ以上落ちる場所はない。
よって、$\color{red}{b}$のベイシンは正確に$b$だけを含むシングルトンセット$\left\{ b \right\}$になる。[ 注: 数学的には、周期点自身は必ずそのベイシンに含まれる。] $\color{green}{a}$のベイシンは赤い線を基準に左側、$\color{green}{c}$のベイシンは赤い線を基準に右側である。
つまり、初期値がどの周期点のベイシンに属しているかによって、その結果を事前に知ることができる。周期点の観点からは、最終的に自分に収束する初期値の集合となり、システムの観点からは、周期点によって作られるパーティションとなる。
Wiggins. (2003). Introduction to Applied Nonlinear Dynamical Systems and Chaos Second Edition(2nd Edition): p108. ↩︎