スカラー関数とベクトル値関数
定義
集合 $D$ を $n$次元のユークリッド空間の部分集合 $D\subset \mathbb{R}^{n}$ とする。
- $D$ を定義域とする関数を多変数関数function of several variablesと呼ぶ。
- $f : D \to \mathbb{R}$ をスカラー関数scalar functionと呼ぶ。
- スカラー関数 $f_{1} , \cdots , f_{m} : D \to \mathbb{R}$ に対して次のように定義された $\mathbf{f} : D \to \mathbb{R}^{m}$ をベクトル値関数vector-valued functionと呼ぶ。 $$ \mathbf{f} ( x_{1} , \cdots , x_{n} ) : = \begin{bmatrix} f_{1} ( x_{1} , \cdots , x_{n} ) \\ \vdots \\ f_{m} ( x_{1} , \cdots , x_{n} ) \end{bmatrix} $$
説明
多変数関数
多変数関数を意味する英語には、function of several variables, multivariable function, multivariate function 等がある。
多変数関数という表現は特に微分積分学を含む解析学で使われる。もともとスカラー関数であれベクトル値関数であれ、ただの関数に過ぎないが、その値域を簡単に区別するために使われる言葉だ。線型代数学の観点から見れば、ベクトル値関数が $m=1$ であればスカラー関数になると言えるので、概念的な差は全くないと言える。
スカラー関数
スカラー関数の例として、$ F ( m , a ) := ma$ を考えることができる。$m$ が質量であろうと$a$ が加速度であろうと、数学者の目には $(m , a) \in \left( [0,\infty) \times \mathbb{R} \right) \subset \mathbb{R}^2$ のような $2$次元ベクトルに見えるべきだ。$ma$ は単に2つの実数 $m$ と $a$ の積であり、$ma \in \mathbb{R}$ であるため、スカラー関数の条件をよく満たしている。一方、ベクトル解析学では、与えられた空間上の全ての点に対してスカラー値が1つずつ対応している点で、スカラー場scalar fieldとも呼ばれる。
ベクトル値関数
ベクトル値関数の例として、 $$ \mathbf{q} ( m , v , a ) : = \begin{bmatrix} ma \\ mv \\ {{1} \over {2}} m v^2 \end{bmatrix} $$ を考えることができる。物理学者の目には、最初の成分から順に力、運動量、運動エネルギーだと思うかもしれないが、ベクトル値関数として考えれば、単に $\mathbf{q} : D \to \mathbb{R}^3$ に過ぎない。一方、ベクトル解析学では、与えられた空間上の全ての点に対してベクトルが1つずつ対応している点で、ベクトル場vector fieldとも呼ばれる。