磁場のベクトルポテンシャル
説明1
静電学では、$\nabla \times \mathbf{E} = \mathbf{0}$という性質を使って、スカラーポテンシャル $V$を定義する。同様に、磁気静学では、$\nabla \cdot \mathbf{B} = 0$という性質を利用してベクトルポテンシャル $A$を定義して使う。磁場 $\mathbf{B}$をあるベクトル $\mathbf{A}$の回転としよう。
$$ \mathbf{B}=\nabla \times \mathbf{A} $$
すると、回転の発散は0だから、自然に次の式が成り立つ。
$$ \nabla \cdot \mathbf{B} = \nabla \cdot (\nabla \times \mathbf{A}) = 0 $$
したがって、カールを取ったときに磁場になるベクトル $\mathbf{A}$を磁場のベクトルポテンシャルと定義する。電場のスカラーポテンシャルを扱う時の要点は、ポテンシャル自体の値ではなく、ポテンシャルの差が重要だった。そこで、定数 $K$の差は、電場を扱う上で影響を与えなかった。同様に、ベクトルポテンシャル $\mathbf{A}$を発散が$0$になるようなベクトルとして定めることができる。発散が$0$でないベクトルでも構わないが$\nabla \cdot \mathbf{A}=0$を満たす時、式が最も綺麗になる。アンペールの法則の微分形にベクトルポテンシャル $\mathbf{A}$を代入してみると、次の式を得る。
$$ \nabla \times \mathbf{B}=\nabla \times (\nabla \times \mathbf{A} ) = \nabla(\nabla \cdot \mathbf{A})-\nabla ^2 \mathbf{A} = \mu_{0} \mathbf{J} $$
を参照)$\nabla \cdot \mathbf{A}=0$であれば、アンペールの法則は綺麗に以下のようになる。
$$ \begin{equation} \nabla ^2 \mathbf{A}=-\mu_{0} \mathbf{J} \label{1} \end{equation} $$
なぜ、自由に$\mathbf{A}$を発散が$0$になる関数として設定してもいいのか確認しよう。発散が$0$でないポテンシャルを$\mathbf{A}_{0}$としよう。ここに任意のスカラー$\lambda$の勾配を加えたものを$\mathbf{A}$としよう。
$$ \mathbf{A}=\mathbf{A}_{0} + \nabla \lambda $$
両辺にカールを取ると、勾配のカールは$\mathbf{0}$だから、
$$ \nabla \times \mathbf{A} = \nabla \times \mathbf{A}_{0} + \nabla \times (\nabla\lambda)=\nabla \times \mathbf{A}_{0} $$
したがって、二つのベクトル$\mathbf{A}, \mathbf{A}_{0}$のカールは同じで、次が成り立つ。
$$ \mathbf{B}=\nabla \times \mathbf{A} = \nabla \times \mathbf{A}_{0} $$
それゆえ、ベクトルポテンシャルに任意のスカラーの勾配を足すことは、磁場を表現する上で何の影響も与えない。二つのベクトルポテンシャルに発散を取ると、
$$ \nabla \cdot \mathbf{A} = \nabla \cdot \mathbf{A}_{0} + \nabla^2 \lambda $$
そこで、$\nabla ^2 \lambda=-\nabla \cdot \mathbf{A}_{0}$を満たす$\lambda$を選べば、ベクトルポテンシャル$\mathbf{A}$の発散を$0$にすることができる。もし、遠くの地点で$\nabla \cdot \mathbf{A}_{0}=0$が成立すれば、次の式を得る。
$$ \lambda=\dfrac{1}{4 \pi}\int \dfrac{\nabla \cdot \mathbf{A}_{0} } {\cR} d\tau^{\prime} $$
$(1)$を解いて$\mathbf{A}$を直接求めると(遠くの地点で$\mathbf{J}=0$の時)
$$ \mathbf{A}(\mathbf{r})=\dfrac{\mu_{0}}{4\pi} \int \dfrac{\mathbf{J} (\mathbf{r}^{\prime}) }{\cR} d\tau^{\prime} $$
式を見るとわかるが、電流の方向が一定であれば、ベクトルポテンシャルと電流の方向が同じになる。線電流と面電流に対するベクトルポテンシャルは、
$$ \mathbf{A}=\dfrac{\mu_{0}}{4\pi} \int \dfrac{\mathbf{I} } {\cR} dl^{\prime}=\dfrac{\mu_{0} I}{4\pi} \int \dfrac{1}{\cR} d\mathbf{l}^{\prime} $$
$$ \mathbf{A}=\dfrac{\mu_{0}}{4\pi}\int \dfrac{K}{\cR} da^{\prime} $$
David J. Griffiths, 基礎電磁気学(Introduction to Electrodynamics, 金甚生 訳) (4th Edition, 2014), p262-263 ↩︎