ストレンジ・アトラクター
定義
カオス 1
不変である閉集合が位相的に推移的であればアトラクターと呼ばれる。コンパクトな不変集合が初期条件に敏感で位相的に推移的であれば、キャオティックと呼ばれる。キャオティックなアトラクターをストレンジアトラクターstrange attractorと呼ぶ。
初期条件に敏感な依存性 2
距離空間 で動的系が のように微分方程式で定義されているとする。 集合 と点 の距離 を上記のように定義する。アトラクター とは次の三つの性質を持つ集合である:
- は不変集合である。
- もし ならば のとき となるようにしつつ、 を含む開集合 が存在する。
- の真部分集合であって上記の二つの条件を満たす集合は存在しない。
アトラクターが初期条件に敏感な依存性を示す場合、ストレンジアトラクターと呼ばれる。
ホモクリニック軌道 3
システムで与えられた時間 に対するフローを のように表す。閉じた不変集合 がすべてのペア と に対して と の間の距離が より小さくなるような および が存在するなら、 は分解不能indecomposableと呼ばれる。
分解不能な閉じた不変集合 が与えられた に対して から 離れた点を含む開集合 が存在し、もし ならば のオメガリミット集合が に含まれる場合、 はアトラクターと呼ばれる。横断するホモクリニック軌道を含むアトラクターをストレンジアトラクターと呼ぶ。
フラクタル 4
システムで与えられた時間 に対するフローを のように表す。不変集合 が次の2つの条件を満たせば安定stableと呼ばれる:
- すべての十分に小さい近傍 に対して、すべての と に対して となるような近傍 が存在する。
- すべての に対して のとき となるような の近傍 が存在する。
不変フラクタル集合が安定であれば、ストレンジアトラクターと呼ばれる。
微分可能性 5
コンパクトな集合の近傍のほとんど全ての初期条件のオメガリミット集合をアトラクターと呼ぶ。有限集合ではなく、部分的に微分可能でないアトラクターをストレンジアトラクターと呼ぶ。
説明
日本語では奇妙な引力子と純化されることもある。
これだけ多くの定義を紹介する意図は、それだけストレンジアトラクターと呼ばれるものが多様な観点から見られ、明確な一つの合意を引き出すのが難しい概念であることを伝えたいからだ。
簡単な直観として述べるならばローレンツアトラクターという親しみのある例があり、カオス理論という文脈において定義で繰り返し言及されるように、実質的にカオスとはほぼ同じものとみなされる。
しかし、セルソCelsoなどは彼らの論文でキャオティックchaoticというのはアトラクターのダイナミクスを、ストレンジstrangeというのはアトラクターの幾何学的構造を指すと述べており5、実際ストレンジアトラクターはフラクタルや微分不可分性とも密接な関係があると述べている6。その論文ではストレンジだがキャオティックでないアトラクターの具体的な例を通じてその存在性を示し、それに従えばカオスや初期条件に敏感な依存性だけでストレンジアトラクターを何であるか断言するのは難しいことが納得できるだろう。
Wiggins. (2003). Introduction to Applied Nonlinear Dynamical Systems and Chaos Second Edition(2nd Edition): p740. ↩︎
Strogatz. (2015). Nonlinear Dynamics And Chaos: With Applications To Physics, Biology, Chemistry, And Engineering(2nd Edition): p324~325. ↩︎
Guckenheimer. (1983). Nonlinear Oscillations, Dynamical Systems, and Bifurcations of Vector Fields: p237, 256. ↩︎
Kuznetsov. (1998). Elements of Applied Bifurcation Theory: p16~18. ↩︎
Grebogi, C., Ott, E., Pelikan, S., & Yorke, J. A. (1984). Strange attractors that are not chaotic. Physica D: Nonlinear Phenomena, 13(1-2), 261-268. https://doi.org/10.1016/0167-2789(84)90282-3 ↩︎ ↩︎
Ruelle, D., Takens, F. On the nature of turbulence. Commun.Math. Phys. 20, 167–192 (1971). https://doi.org/10.1007/BF01646553 ↩︎