抽象代数学における軌道、巡回、置換
定義 1
- $\sim$の同値類を$\sigma$の軌道orbitという。
- 二つ以上の元を持つ軌道を高々一つだけ持つ順列を循環cycleという。
- 循環が持つ軌道の中で最も基数が大きい軌道の基数を循環の長さlengthという。
- 長さが$2$の循環を転置transpositionという。
- 循環に対応する軌道が元を共有しない場合、互いに素disjointという。
説明
定義だけでは理解できないのが普通だから、実際の例を見てみよう。
軌道
$S_{8}$から順列 $$ \sigma = \begin{bmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 & 7 & 8 \\ 3 & 8 & 6 & 7 & 4 & 1 & 5 & 2 \end{bmatrix} $$ を考えてみよう。この表現は $$ 1 \to 3 \to 6 \to 1 \\ 2 \to 8 \to 2 \\ 4 \to 7 \to 5 \to 4 $$ を表す。だから、同値関係$\sim$は次の三つの同値類を決定する。 $$ \left\{ 1, 3, 6 \right\} \\ \left\{ 2, 8 \right\} \\ \left\{ 4 , 5 , 7 \right\} $$
循環
$S_{5}$から順列 $$ \mu_{1} = \begin{bmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 & 5 \\ 3 & 2 & 5 & 1 & 4 \end{bmatrix} $$ を考えてみよう。この順列は$1 \to 3 \to 5 \to 4 \to 1$で表され、変わらない$2$を除いて$(1,3,5,4)$だけで表すことができる。この表現を使うとき、順序が重要で、$(1,3,5,4) = (3,5,4,1)$だけど$(1,3,5,4) \ne (1,5,3,4)$ではないことを注目しなければならない。また、 $$ \mu_{2} = \begin{bmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 2 & 1 & 3 \end{bmatrix} $$ を考えると、$(1,2)$は$3$が存在することさえ表されないから、$S_{3}$で$(1,2)$だと明確にする必要がある。
長さ
循環 $$ \mu_{1} = \begin{bmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 & 5 \\ 3 & 2 & 5 & 1 & 4 \end{bmatrix} $$ の軌道は $$ \left\{ 1,3,4,5 \right\} \\ \left\{ 2 \right\} $$ 二つだけだ。この時、$ | \left\{ 1,3,4,5 \right\} | = 4$と$| \left\{ 2 \right\} | =1 $だから、$\mu_{1}$の長さは$4$になる。
転置
循環 $$ \mu_{2} = \begin{bmatrix} 1 & 2 & 3 \\ 2 & 1 & 3 \end{bmatrix} = (1,2) $$ は長さが$2$だから、転置だ。簡単に言うと、二つの元だけを交換する循環だ。一般的に、 $$ (1,2, \cdots , n) = (1, n) (1, n-1 ) \cdots (1,3) (1,2) $$ で表すことができる。もし$3$を基準にしたいなら、 $$ (1,2, \cdots , n) = (3, 4, \cdots , n , 1, 2 ) = (3 , 2) (3, 1) \cdots (3,4) $$ に変えればいい。とても便利な性質だから、必ず覚えておこう。
互いに素
$$ \sigma = \begin{bmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6 & 7 & 8 \\ 3 & 8 & 6 & 7 & 4 & 1 & 5 & 2 \end{bmatrix} = (1,3,6) (2,8) (4,7,5) $$ を考えてみよう。三つの循環$(1,3,6)$、$(2,8)$、そして$(4,7,5)$は、対応する軌道が元を共有しないから、互いに素だ。この表現から分かることは、 $$ (1,3,6) (2,8) (4,7,5) = (4,7,5) (2,8) (1,3,6) $$ として表すのは全く問題ないということだ。順列は循環の積として表されるし、そういう積を同じものと見なせば、軌道は一意に決まる。