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行列のスペクトラムと分解集合 📂行列代数

行列のスペクトラムと分解集合

定義1

正方行列$A$のすべての固有値の集合$\sigma (A)$を$A$のスペクトラムspectrumと呼ぶ。

スペクトラムの補集合$\rho (A) = \mathbb{C} \setminus \sigma (A)$を$A$の解集合resolvent setという。

説明

$$ Ax = \lambda x $$

行列$A$に対する固有値方程式を考えてみよう。上の式を満たすベクトル$x$を固有ベクトル、定数$\lambda$を固有値と呼ぶ。この式を少し変更すると次のようになる。ここで$I$は単位行列だ。

$$ (A - \lambda I)x = 0 $$

もし$A - \lambda I$が可逆行列ならば、$x = (A - \lambda I)^{-1}0 = 0$になり、結果として$x = 0$零ベクトルであり、固有ベクトルではない。また、$\lambda$も$A$の固有値ではない。だから、行列$A$の解集合とは、$A - \lambda I$が可逆行列となる$\lambda$の集合とも言える。

$$ \rho (A) = \left\{ \lambda : A - \lambda I \text { is invertible.} \right\} $$

逆に、$A$のスペクトラムとは、$A - \lambda I$が非可逆行列となる$\lambda$の集合とも言える。

$$ \sigma (A) = \left\{ \lambda : A - \lambda I \text { is singular.} \right\} $$

語源

スペクトラムspectrumは、物理学で光を波長別に分け、その色を表示することから来ている。中学校で学ぶ線スペクトラムが典型的な例である。各原子は、励起状態から基底状態にエネルギー準位が下がる際に特定のエネルギー(波長)を放出する。これを放出スペクトラムと呼ぶ。放出スペクトラムは、それぞれの元素に特有であり、各元素の特徴と言える。炎色反応実験を思い出してほしい。リチウム、ナトリウム、カリウムガスがそれぞれ独自の炎の色を持っており、これが放出スペクトラムである。行列のスペクトラムという名前も光のスペクトラムのこの性質から来ており、各行列を一つの原子と考えると、その固有値は行列(原子)が放出するエネルギーの固有波長であり、その波長を集めたものがまさにスペクトラムである。

この概念は、物理学や数学を超えて、「持つことのできるすべての値」を広く使われている。例えば、最近流行った「イカれた弁護士、ウ・ヨンウ」で広く知られるようになった「自閉スペクトラム」という言葉がある。これも、自閉症が特定の一つの症状で定義される概念ではないため、この言葉が付けられた。


  1. Erwin Kreyszig, Introductory Functional Analysis with Applications (1978), p365 ↩︎