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線形代数学における剰余類と商空間 📂線形代数

線形代数学における剰余類と商空間

定義1

VVFF-ベクトル空間WVW \le V部分空間とする。vVv \in Vに対して、次の集合

{v}+W:={v+w:wW} \left\{ v \right\} + W := \left\{ v + w : w \in W \right\}

vvを含む WW剰余類coset of WW containing vvという。左辺の ++集合の和である。

説明

しばしば {v}+W\left\{ v \right\} + W の代わりに v+Wv + W と略記する。

WWのすべての剰余類の集合を {v+W:vV}\left\{ v + W : v \in V \right\} とする。加法と (FF による)スカラー倍を次のように定義する。

(v1+W)+(v2+W)=(v1+v2)+W,v1,v2V (v_{1} + W) + (v_{2} + W) = (v_{1} + v_{2}) + W,\quad \forall v_{1}, v_{2} \in V

a(v+W)=av+WvV and aF a(v + W) = av + W\quad \forall v \in V \text{ and } a \in F

するとこの集合は再び FF-ベクトル空間になる。このベクトル空間を V/WV/W と記し、WWで割った VV商空間quotient space of VV modulo WWと呼ぶ。ここまで定義を受け入れても、このようなベクトル空間をわざわざ 商空間 と呼び、割り算と同様に V/WV / W と表記する理由を一度に察するのは容易ではない。詳しい説明とともに理解しよう。全空間と部分空間を次のように置く。

V=R5={(a,b,c,d,e)} V = \mathbb{R}^{5} = \left\{ (a,b,c,d,e) \right\}

W=R2={(a,b,0,0,0)} W = \mathbb{R}^{2} = \left\{ (a,b,0,0,0) \right\}

すると商空間を 生成する基底は以下の通りであることが分かる。

{(0,0,1,0,0)+W,(0,0,0,1,0)+W,(0,0,0,0,1)+W} \left\{ (0,0,1,0,0) + W, (0,0,0,1,0) + W, (0,0,0,0,1) + W \right\}

すなわち V/W={v+W:vV}V/W = \left\{ v + W : v \in V \right\} は3次元ベクトル空間である。

V/WR3 V / W \cong \mathbb{R}^{3}

以下のように書くと、商空間の表記法がまるで指数法則で次元を下げるかのように適切であることが一目で分かる。

V/W=VW=R5R2=R52=R3 V/W = \dfrac{V}{W} = \dfrac{\mathbb{R}^{5}}{\mathbb{R}^{2}} = \mathbb{R}^{5-2} = \mathbb{R}^{3}

実際に 次の式が成り立つ。

dim(V/W)=dim(V)dim(W) \dim(V/W) = \dim(V) - \dim(W)

命題

(a) v+Wv + WVVの部分空間であることは vWv \in Wであることと同値である。 (代数学での証明)

(b) v1,v2Vv_{1}, v_{2} \in Vに関して、v1+W=v2+Wv_{1} + W = v_{2} + Wであることは v1v2Wv_{1} - v_{2} \in Wであることと同値である。 (代数学での証明)

(c) V/WV/Wはベクトル空間であり、零ベクトルは 0V+W=W0_{V} + W = Wである。 (0V0_{V}VVの零ベクトルである。)

証明

(a)

  • ()(\Longrightarrow)

    v+Wv + WVVの部分空間であると仮定する。すると、0V0_{V}VVの零ベクトルとすると、0Vv+W0_{V} \in v + Wである。したがってある wWw \in Wに対して 0V=v+w0_{V} = v + wであり、w=vWw = -v \in Wである。WWVVの部分空間であるからスカラー倍に関して閉じており v=(v)Wv = -(-v) \in Wである。

  • ()(\Longleftarrow)

    vWv \in Wと仮定する。v+Wv + WVVの部分空間であることを示すには 加法とスカラー倍に関して閉じていることを示せばよい。 v+w1,v+w2v+Wv + w_{1}, v + w_{2} \in v + Wとする。これら二つを足すと次のとおりである。

    (v+w1)+(v1+w2)=v+(v+w1+w2) (v + w_{1}) + (v_{1} + w_{2}) = v + (v + w_{1} + w_{2})

    WWは部分空間だから加法に関して閉じており、仮定により vvWWの元であるから、ある w3Ww_{3} \in Wに対して次が成り立つ。

    v+(v+w1+w2)=v+w3W v + (v + w_{1} + w_{2}) = v + w_{3} \in W

    次に aFa \in Fとする。すると同様に仮定より、ある w4Ww_{4} \in Wに対して次が成り立つ。

    a(v+w)=v+((a1)v+aw)=v+w4W a(v + w) = v + \left( (a-1)v + aw \right) = v + w_{4} \in W

(b)

  • ()(\Longrightarrow)

    v1+W=v2+Wv_{1} + W = v_{2} + Wと仮定する。すると VVの零ベクトル 0V0_{V}とある wWw \in Wに対して次が成り立つ。

    v1+0V=v2+w    v1v2=wW v_{1} + 0_{V} = v_{2} + w \implies v_{1} - v_{2} = w \in W

  • ()(\Longleftarrow)

    v1v2Wv_{1} - v_{2} \in Wと仮定する。すると

    v2+W={v2+w:wW}={v2+((v1v2)+w):wW}={v1+w:wW}=v1+W \begin{align*} v_{2} + W &= \left\{ v_{2} + w : w \in W \right\} \\ &= \left\{ v_{2} + \left( (v_{1} - v_{2}) + w \right) : w \in W \right\} \\ &= \left\{ v_{1} + w : w \in W \right\} \\ &= v_{1} + W \end{align*}

関連項目


  1. Stephen H. Friedberg, Linear Algebra (4th Edition, 2002), p23 ↩︎