マルコフの不等式の証明
定理 1
確率変数 $X$に対して関数 $u(X) \ge 0$を定義する。$E \left( u(X) \right)$が存在すれば、$c > 0$に対して $$ P(u(X) \ge c) \le {E \left( u(X) \right) \over c} $$
説明
多くの証明で使用される補助補題として、より便利に使えるチェビシェフの不等式がある。
条件で$1$次のモーメントが存在する必要があることを、あまりにも簡単で当然と思うかもしれない。まあ、ある程度はその通りだが、少なくとも学部生ならば、その存在性がそれほど当然ではないことくらいは知っておくべきだ。
証明
戦略:積分範囲を$c$を基準に二つに分けて、大小関係だけを使って簡単な形に変える。この証明は連続確率分布に対するものだが、同じ方法で離散確率分布に対しても証明可能である。
集合$A := \left\{ x : u(x) \ge c \right\}$と確率変数$X$の確率密度関数$f$を定義する。
$\mathbb{R} = A \cup A^c$なので $$ E(u(X)) = \int _{-\infty} ^{\infty} u(x)f(x)dx = \int _{A} u(x)f(x)dx + \int _{A^c} u(x)f(x)dx $$ $u(x)f(x) \ge 0$ならば$\displaystyle \int _{A^c} u(x)f(x)dx \ge 0$なので $$ E(u(X)) \ge \int _{A} u(x)f(x)dx $$ $u(x) \ge c$なので $$ E(u(X)) \ge c \int _{A} f(x)dx $$ $\displaystyle \int _{A} f(x)dx = P(X \in A) = P(u(X) \ge c)$なので $$ E(u(X)) \ge c P(u(X) \ge c) $$ 両辺を$c$で割ると $$ {E(u(X)) \over c} \ge P(u(X) \ge c) $$
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Hogg et al. (2013). Introduction to Mathematical Statistcs(7th Edition): p68. ↩︎