線形変換の逆
定義1
$V, W$をベクトル空間、$T : V \to W$を線形変換とする。線形変換$U : W \to V$が次を満たすなら、$U$を$T$の逆inverse of $T$または逆変換という。
$$ TU = I_{W} \quad \text{and} \quad UT = I_{V} $$
$TU$は$U$と$T$の合成、$I_{X} : X \to X$は恒等変換だ。$T$に逆変換がある場合、$T$を可逆invertible変換という。$T$が可逆なら、逆変換$U$は唯一で、$T^{-1} = U$と表記される。
説明
定義により、変換が可逆であることは全単射関数であることと同等だ。
性質
(a) $(TU)^{-1} = U^{-1}T^{-1}$
(b) $(T^{-1})^{-1} = T$
(c) $T : V \to W$が線形変換で、$V, W$が同じ次元の有限次元ベクトル空間である場合、
$$ \rank (T) = \dim (V) $$
$\rank (T)$は$T$の階数だ。
(d) 線形変換$T : V \to W$の逆$T^{-1} : W \to V$も線形変換だ。
(e) 可逆線形変換$T : V \to W$に関して、$V$が有限次元であることの必要十分条件は$W$が有限次元であることだ。この場合$\dim(V) = \dim(W)$が成り立つ。
(f) $T$が可逆であることは$[T]_{\beta}^{\gamma}$が可逆であることと同等だ。さらに$[T^{-1}]_{\beta}^{\gamma} = ([T]_{\beta}^{\gamma})^{-1}$。この時、$[T]_{\beta}^{\gamma}$は$T$の行列表現だ。
証明
(d)
$\mathbf{x}_{1}, \mathbf{x}_{2} \in V$とし、$k$を任意の定数とする。すると、$T$が線形であるため、次が成り立つ。
$$ \begin{align*} T^{-1} \left( T(\mathbf{x}_{1}) + k T(\mathbf{x}_{2}) \right) &= T^{-1} \left( T(\mathbf{x}_{1} + k \mathbf{x}_{2}) \right) \\ &= \mathbf{x}_{1} + k \mathbf{x}_{2} \\ &= T^{-1}\left( T(\mathbf{x}_{1}) \right) + kT^{-1}\left( T(\mathbf{x}_{2}) \right) \end{align*} $$
■
(e)2
$V$が有限次元で、$\beta = \left\{ \mathbf{v}_{1}, \dots, \mathbf{v}_{n} \right\}$が$V$の基底であるとする。すると、$T(\beta)$は値域$R(T)=W$を生成する。
$$ \span (T(\beta)) = R(T) = W $$
したがって、$W$は有限次元だ。逆も同様に成り立つ。
今、$V, W$が有限次元であると仮定する。$T$が単射で全射であるため、
$$ \nullity (T) = 0 \quad \text{and} \quad \rank(T) = \dim(R(T)) = \dim(W) $$
次元定理により、
$$ \dim(V) = \rank(T) + \nullity(T) = \dim(W) $$
■
(f)2
$(\Longrightarrow)$
$T : V \to W$が可逆であると仮定する。すると(e)により$\dim(V) = n = \dim(W)$だ。すると、$[T]_{\beta}^{\gamma}$は$n \times n$行列だ。$T$の逆$T^{-1}$について$T^{-1}T = I_{V}, TT^{-1} = I_{W}$なので、
$I_{n} = [I_{V}]_{\beta} = \href{../3074}{[T^{-1}T]_{\beta} = {[T^{-1}]_{\gamma}^{\beta}[T]_{\beta}^{\gamma}}}$
同様に、$I_{n} = [I_{W}]_{\beta} = [TT^{-1}]_{\beta} = [T]_{\beta}^{\gamma}[T^{-1}]_{\gamma}^{\beta}$が成り立つ。したがって、$[T]_{\beta}^{\gamma}$は可逆行列であり、逆行列は$([T]_{\beta}^{\gamma})^{-1} = [T^{-1}]_{\gamma}^{\beta}$だ。
$(\Longleftarrow)$
$A = [T]_{\beta}^{\gamma}$が可逆行列であると仮定する。すると、$AB = BA = I$を満たす$n \times n$行列$B$が存在する。すると、次のように定義される線形変換$U : W \to V$が唯一に存在する。
$$ U(\mathbf{w}_{j}) = \sum_{i=1}^{n}B_{ij}\mathbf{v}_{i} \quad \text{ for } j = 1,\dots,n $$
この時、$\gamma = \left\{ \mathbf{w}_{1}, \dots, \mathbf{w}_{n} \right\}, \beta = \left\{ \mathbf{v}_{1}, \dots, \mathbf{v}_{n} \right\}$だ。すると、$U$の行列表現は$[U]_{\gamma}^{\beta} = B$だ。すると、次が成り立つ。
$$ [UT]_{\beta} = [U]_{\gamma}^{\beta} [T]_{\gamma}^{\beta} = BA = I_{n} = [I_{V}]_{\beta} $$
したがって、$UT = I_{V}$であり、同様に、$TU = I_{W}$が成り立つ。したがって、$T$は可逆変換だ。
■