ベクトル場のリー括弧
定義1
微分多様体 $M$ における二つの微分可能なベクトル場 $X, Y$に対して、$[X, Y]$を以下のように定義し、(リー-)ブラケット(Lie-)bracket、リー演算またはリー代数Lie-algebraと呼ぶ。
$$ \begin{equation} [X, Y] := XY - YX \end{equation} $$
説明
ベクトル場 $X, Y$は、$\mathcal{D}(M)$に作用するオペレーターと見ることができ、$XY$はベクトル場にならないが、$[X, Y] = XY - YX$はベクトル場になる。
$(1)$のような式を満たす$[\cdot, \cdot]$は一般に交換子commutatorと呼ばれる。
以下の定理では(a)、(b)、(c)は、リー・ブラケットでなくても、交換子であれば一般的に満たされる性質である。特に(c)はヤコビ恒等式Jacobi identityと呼ばれる。
定理
$X, Y, Z$を$M$上の微分可能なベクトル場とする。$a, b$を実数、$f, g$を$M$上の微分可能な関数とする。すると、以下が成立する。
(a) $[X, Y] = -[Y, X]$
(b) $[aX + bY, Z] = a[X, Y] + b[Y, Z]$
(c) $[ [X, Y], Z] + [ [Y, Z], X] + [ [Z, X], Y] = 0$
(d) $[fX, gY] = fg[X, Y] + fX(g)Y - gY(f)X$
証明
(d)
積の微分$X(gY) = X(g)Y + gXY$が成立するため、
$$ \begin{align*} [fX, gY] &= fX(gY) - gY(fX) \\ &= \left( fX(g)Y + fgXY \right) - \left( gY(f)X - gfYX \right) \\ &= fgXY - fgYX + fX(g)Y + gY(f)X\\ &= fg(XY - YX) + fX(g)Y + gY(f)X\\ &= fg[X, Y] + fX(g)Y + gY(f)X \end{align*} $$
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Manfredo P. Do Carmo, Riemannian Geometry (Eng Edition, 1992), p27-28 ↩︎