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量子力学における固有値方程式の意味 📂量子力学

量子力学における固有値方程式の意味

定義

行列

$n\times n$ 行列 $A$が与えられるとする。この式を満たす$a$を固有値eigenvalue、零ベクトルでない$n\times 1$ベクトル $\mathbf{x}$を$a$に対応する固有ベクトルeigen vectorという。

$$ A \mathbf{x} = a \mathbf{x} \tag{1} $$

演算子

演算子 $A$が与えられたとする。下の式を満たす$a$を固有値、() ゼロでない $\ket{a}$を$a$に対応する固有関数eigen function という。

$$ A \ket{a} = a \ket{a} \tag{2} $$

特に式$(2)$を固有値方程式eigenvalue equationといい、与えられた演算子$A$に対して固有値方程式を立てて固有値と固有関数を求めることを固有値問題eigenvalue problemという。

説明

物理学では固有ベクトルという言葉より固有関数または固有状態eigen stateという言葉が使われることが多い。状態を示す表記法としては単一矢括弧を使って$\ket{a}$のように表記し、ケットAと読む。この表記法をディラック表記法 という。

数学的性質

$\ket{a}$が$A$の$a$に対応する固有関数なら、任意の定数$c$に対して$c\ket{a}$も$a$に対応する固有関数だ。つまり同じ固有値に対応する固有関数は互いに定数倍だ。

$$ \begin{align*} A(c\ket{a}) &= cA\ket{a} \\ &= ca\ket{a} \\ &= a(c\ket{a}) \end{align*} $$

物理的解釈

量子力学では演算子物理量を観測する行為として解釈される。したがって、次の固有値方程式は物理量を観測する行為を数学的に表現したものだ。波動関数 $\psi$の物理量$A$を観測したとき、その値が$a$だと解釈できる。

$$ A \psi = a \psi $$

簡単に言うと、体重を測定する行為に例えると、$A$は体重計に乗る行為、$\psi$は人、$a$は$\psi$の体重だ。これは非常に重要な意味を持つ。なぜなら量子力学では粒子(波動)の物理量が量子化quantizedされていることがわかるからだ。ハミルトニアン演算子 $H$は粒子のエネルギーを観測する演算子だ。

$$ H \psi = E \psi $$

しかし与えられたポテンシャル$V$に対する上記の固有値方程式を解いた場合、固有値が連続的に現れず$E_{1}$, $E_{2}$, $E_{3}$, $\dots$のように離散的に現れるならば、与えられた条件で粒子が持ちうるエネルギーは$E_{1}$, $E_{2}$, $E_{3}$, $\dots$だけということを意味する。つまりエネルギーが量子化されているということだ。だから量子力学で固有値問題を解くということは、粒子が持ちうる状態(固有関数)とその状態で持ちうる物理量(固有値)を求めることだ。

固有値方程式の解

$(1)$を右辺が$0$になるように整理すると

$$ \begin{align*} && A\mathbf{x} &= \lambda \mathbf{x} \\ \implies && A\mathbf{x}-\lambda \mathbf{x} &=0 \\ \implies && (A-\lambda I)\mathbf{x} &=0 \end{align*} $$

ここで、行列$(A-\lambda I)$の逆行列が存在すると仮定しよう。逆行列を両辺に掛けると

$$ \mathbf{x}=(A-\lambda I)^{-1} \cdot 0 = 0 $$

したがって$\mathbf{x} = 0$だ。しかしこのような解は何の意味もないので$0$ではなく$\mathbf{x}$を求めることに集中しよう。そうするためには$(A-\lambda I)$の逆行列が存在してはならない。任意の行列の逆行列が存在しない条件は行列式が$0$であることだ。したがって$0$ではなく$\mathbf{x}$を求める条件は次の通りだ。

$$ |A-\lambda I |=0 $$

このとき上記の式を特性方程式characteristic equationといい、この特性方程式の解が固有値だ。

固有値の求め方

行列$A$が$A=\begin{pmatrix} 6 & 2 \\ 2 & 3 \end{pmatrix}$で与えられるとしよう。すると$A-\lambda I$は以下の通りだ。

$$ \begin{pmatrix} 6 & 2 \\ 2 & 3 \end{pmatrix}-\lambda I = \begin{pmatrix} 6 -\lambda& 2 \\ 2 & 3-\lambda \end{pmatrix} $$

特性方程式を解くと

$$ \begin{align*} \begin{vmatrix} 6 -\lambda & 2 \\ 2 & 3-\lambda \end{vmatrix} &= (\lambda -6)(\lambda -3)-4 \\ &= \lambda^2-9\lambda+14 \\ &=(\lambda-7)(\lambda-2)=0 \end{align*} $$

したがって、二つの固有値が$\lambda=7$, $\lambda=2$であることがわかる。

固有関数の求め方

固有値を求めたら、各固有値に対応する固有関数を求めることができる。$\mathbf{x}=\begin{pmatrix} x_{1} \\ x_{2} \end{pmatrix}$としよう。

ケース1 $\lambda = 7$

$$ \begin{align*} && (A-\lambda I) \mathbf{x}&=0 \\ \implies && \begin{pmatrix} 6-7 & 2 \\ 2 & 3-7 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_{1} \\ x_{2} \end{pmatrix}&= \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} \\ \implies && \begin{pmatrix} -1 & 2 \\ 2 & -4 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_{1} \\ x_{2} \end{pmatrix}&= \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} \\ \implies && \begin{pmatrix} -1x_{1} + 2x_{2} \\ 2x_{1} -4x_{2} \end{pmatrix} &= \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} \end{align*} $$

このとき、$2x_{1}=x_{2}$が成り立つ任意の$x_{1}$、$x_{2}$でも上記の式を満たすので、上記の式の解$\mathbf{x}$は無数に存在する。しかし、量子力学では$\mathbf{x}$は波動関数であり、波動関数は規格化しなければ意味を成さない。したがって、何れにせよ規格化するので、上記の式を満たす任意の$x_{1}$、$x_{2}$の組を選べばよい。どの組を選んでも、規格化過程を経れば最終的に同じ値になる。ここで重要な点は、できるだけ簡単な形を選ぶことだ。無意味に$x_{2}=1000$のとき$x_{1}=2000$の解を選ぶ必要はない。この場合、$x_{1}=1$のとき$x_{2}=2$なので、固有関数は

$$ \mathbf{x_{1}}=\begin{pmatrix} a \\ b \end{pmatrix}=\begin{pmatrix} 2 \\ 1 \end{pmatrix} $$

ここでまた重要な点は必ず規格化することだ。規格化された固有関数は次の通りだ。

$$ \mathbf{x}_{1}=\frac{1}{\sqrt{5}}\begin{pmatrix} 2 \\ 1 \end{pmatrix} $$

ケース2 $\lambda = 2$

同じ方法で規格化された固有関数$x_{2}$を求めると次の通りだ。

$$ \mathbf{x}_{2}= \frac{1}{\sqrt{5}}\begin{pmatrix} 1 \\ -2 \end{pmatrix} $$