ディラック記法とは何ですか?
📂量子力学ディラック記法とは何ですか?
定義
量子力学では波動関数はベクトルであり、基本的に列ベクトルとして扱われる。列ベクトルは右の単一角括弧で表記され、これをケットベクトルket vectorと呼ぶ。
ψ=∣ψ⟩=ψ1ψ2⋮ψn
∣ψ⟩の共役転置行列を左の単一角括弧で表記し、これをブラベクトルbra vectorと呼ぶ。
ψ∗=∣ψ⟩∗=⟨ψ∣=(ψ1∗ψ2∗⋯ψn∗)
∗は共役転置を意味する。
説明
共役転置
物理学では通常∗は複素共役として説明されるが、数学では∗は複素共役と転置行列の両方の意味を持っている。しかし上記の定義から分かるように、物理学においても転置transposeの意味を持つ表記であることがわかる。つまり、物理学では表記法を重複して使用して、スカラーに付けられていると複素共役を意味し、ベクトルや行列に付けられていると共役転置を意味する。∗を単に複素共役の意味だけで考えると、ψが列ベクトルのときにψ∗がなぜ行ベクトルなのかがわからなくなるので注意が必要だ。
名前の由来
名前の由来は括弧を意味する英単語ブラケットbracketだ。括弧を半分ずつ使うので、単語も半分ずつ分けて名前にしたものだ。簡単に言えば、括-ベクトル(bra-vector)とホ-ベクトル(ket-vector)と言うことができる。
内積との関連性
量子力学で演算子と波動関数(固有関数)を便利に演算するために使用される表記法のひとつだ。単一角括弧を使う理由は内積と関連があるからだ。数学では一般化された内積の表記として⟨⟩を使う。したがって、行ベクトルと列ベクトルを上記のように表記すると、2つのベクトルの積はそのまま内積になるので意味がよく合う。
⟨ψ∣ϕ⟩=(ψ1∗ψ2∗⋯ψn∗)ϕ1ϕ2⋮ϕn=ψ1∗ϕ1+ψ2∗ϕ2+⋯+ψn∗ϕn
任意の演算子Qの期待値は次の通りだ。
⟨Q⟩=∫ψ∗Qψdx
これはψとQψの内積と見なすことができ、したがって次のように表記できる。
⟨ψ∣Qψ⟩
あるいは、Q∗ψとψの内積と考えることもできる。
∫ψ∗Qψdx=∫(Q∗ψ)∗ψdx=⟨Q∗ψ∣ψ⟩
以下の表記法はすべて同じ式を意味する。
⟨Q⟩=⟨ψ∣Q∣ψ⟩=⟨ψ∣Qψ⟩=⟨Q∗ψ∣ψ⟩=∫ψ∗Qψdx