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ベクトル空間の部分空間 📂線形代数

ベクトル空間の部分空間

定義1

$W$がベクトル空間$V$の空集合でない部分集合とする。$W$が$V$で定義された加算とスカラー乗算に対してベクトル空間の定義を満たす時、$W$をベクトル空間$V$の部分空間subspaceと呼び、以下のように表記する。

$$ W \le V $$

説明

ベクトル空間$V$の部分集合$W$が$V$の部分空間かどうかを判断するためには、ベクトル空間になるための10の規則を全て満たさなければならない。ベクトル空間の部分集合を取るたびに10の規則を全て確認するのはかなり面倒で困難なことになるだろう。しかし幸いなことに、あるベクトル空間の部分集合である理由だけで、いくつかの規則は自明に成立する。

例えば$\mathbf{u},\mathbf{v}$が$W$の要素であれば、同時に$V$の要素であるため、(A2), (A3), (M2)-(M5) は自然に成立する。したがって、加算に対する閉包性**(A1)、ゼロベクトルの存在(A4)、逆の存在(A5)、スカラー乗算に対する閉包性(M1)だけを確認すれば、$W$は部分空間であることがわかる。しかし実際にはもっと単純である。条件(A1)(M1)**を満たすことが部分空間であるための同値条件となる。

ベクトル空間$V$の部分空間の例には、以下のものがある。

線形変換$T : V \to W$に対して、

線形変換$T : V \to V$に対して、

定理: 部分空間判定法

$W$をベクトル空間$V$の空集合でない部分集合とする。$W$が$V$の部分空間であることと$W$が以下の二つの条件を満たすことは必要十分条件である。

(A1) 部分集合$W$が$V$で定義された加算に対して閉じている。

(M1) 部分集合$W$が$V$で定義されたスカラー乗算に対して閉じている。

証明

  • $(\implies)$

    $W$が$V$の部分空間であると仮定する。$W$が部分空間であれば、ベクトル空間の定義により$W$が**(A1)(M1)**を満たすことは自明である。

  • $(\impliedby)$

    $W$が$(A1)$、$(M1)$を満たすと仮定する。そして$\mathbf{u} \in W$とする。そうすると$W$はスカラー乗算に対して閉じていて、$0\mathbf{u}=\mathbf{0}$であるため、以下が成立する。

    $$ 0 \mathbf{u} = \mathbf{0} \in W $$

    同じ理由で$(-1)\mathbf{u}=-\mathbf{u}$によって以下が成立する。

    $$ (-1)\mathbf{u} = -\mathbf{u} \in W $$

    したがって$W$は**(A1)-(M5)**を全て満たすので$V$の部分空間である。

定理: 部分空間の交差も部分空間である2

$W_{1}, W_2$をベクトル空間$V$の部分空間とする。すると$W_{1} \cap W_2$も$V$の部分空間である。

証明

部分空間判定法により、$W_{1} \cap W_2$が**(A1)(M1)**を満たしているか確認すればよい。$W= W_{1} \cap W_2$とする。

  • (A1)

    $W = W_{1} \cap W_2$であるため、$W$内の任意の二つのベクトル$\mathbf u,\mathbf v$はそれぞれ$W_{1}$、$W_2$にも含まれている。$W_{1}, W_2$は部分空間であるため、加算に対して閉じている。したがって

、以下が成立する。

$$ \mathbf u + \mathbf v \in W_{1}, \quad \mathbf u + \mathbf v \in W_2 $$

したがって、交差の定義により以下が成立する。

$$ \mathbf u + \mathbf v \in W $$

$W$内の任意の二つのベクトル$\mathbf u,\ \mathbf v$に対して、$\mathbf u + \mathbf v$も$W$の要素であるため、$W$は加算に対して閉じており、**(A1)**を満たす。

  • (M1)

    上記の場合と同様に証明する。

    $W = W_{1} \cap W_2$であるため、$W$内の任意のベクトル$\mathbf u$は$W_{1}$、$W_2$にも含まれている。$W_{1},\ W_2$は部分空間であるため、スカラー乗算に対して閉じている。したがって、あるスカラー$k$に対して以下が成立する。

    $$ k\mathbf{u} \in W_{1} \quad k \mathbf{u} \in W_2 $$

    したがって、交差の定義により以下が成立する。

    $$ k\mathbf u \in W $$

    $W$内の任意のベクトル$\mathbf u$に対して、$k\mathbf u$も$W$の要素であるため、$W$はスカラー乗算に対して閉じており、**(M1)**を満たす。

  • 結論

    $W_{1}, W_{2}$が部分空間の時、$W = W_{1} \cap W_2$が**(A1)(M1)**を満たすので、$W$も部分空間である。

従来の定理

$W_{1}, W_{2}, \dots W_{n}$がベクトル空間$V$の部分空間とする。すると$W = W_{1} \cap \cdots \cap \dots W_{n}$も$V$の部分空間である。


  1. Howard Anton, 基礎線形代数: アプリケーションバージョン (第12版, 2019), p211-212 ↩︎

  2. Howard Anton, 基礎線形代数: アプリケーションバージョン (第12版, 2019), p216 ↩︎