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ユークリッドの公理系 📂幾何学

ユークリッドの公理系

概要 1

ユークリッドEuclidは、彼の著書『幾何学原論』Elements of Geometryで23の定義definitionと5つの公準postulate、5つの共通概念common notionを示した。

公理

定義は原文とはやや異なる形で整理した。実際には正確に23の概念を定義したというより「規則」に近いものが混じっているためだ。例えば「(3) 線の両端は点である」は何かを定義したというより、線というものに対する付加的な説明に近い。

定義

(1) 部分を持たないものをpointという。

(2) がなく長さのみを持つものをlineという。 (3) 線の両端は点である。 (4) 等間隔に並んだ点の上にある線を直線straight lineという。

(5) 長さを持つものをsurfaceという。 (6) 面の端は線である。 (7) 等しく並んだ直線上にある面を平面plane surfaceという。

(8) 同一直線上にない二つの線が交わるとき、その傾きを平面角plane angleという。 (9) 線が直線的に延びている場合の角を直線角rectilinearという。 (10) 二つの直線が作る角が互いに等しいとき、それを直角right angleという。また、ある直線が他の直線に垂直perpendicularであるという。 (11) 直角より大きいものを鈍角obtuse angleという。 (12) 直角より小さいものを鋭角acute angleという。

図形

(13) あるものの端を境界boundaryという。 (14) 境界に含まれるものを図形figureという。

(15) 一点から等距離にある点を通る線を円周circumferenceといい、円周を含む平面図形をcircleという。 (16) その一点を中心centerという。 (17) 中心から引かれて円上で終わる直線を直径diameterという。これは円を二等分する。 (18) 半円semi-circleは直径とその直径で切られた円周に含まれる図形である。

多角形

(19) 直線で囲まれた図形を直線図形rectilinear figureという。辺が三つなら三辺形trilateral figure、四つなら四辺形quadrilateral figure、四つより多ければ多辺形multilateral figureという。

  • 以後、これらをそれぞれ三角形、四角形、多角形と呼ぶ。

(20) 三角形の全ての辺が等しいなら正三角形equilateral triangle、二辺が等しいなら二等辺三角形isosceles triangle、三辺がそれぞれ異なれば不等辺三角形scalene triangleという。 (21) 三角形が直角を持てば直角三角形right-angled triangle、鈍角を持てば鈍角三角形obtuse-angled triangle、三つの鋭角を持てば鋭角三角形acute-angled triangleという。

(22) 四角形の四つの角がすべて等しく辺の長さも等しければ正方形square、四つの角がすべて直角だが辺の長さが異なれば長方形rectangle、四つの角が直角でないが辺の長さが等しければ菱形rhombus、向かい合う角の大きさが等しければ平行四辺形rhomboidという。

平行線

(23) 同一平面上でそれぞれの方向に無限に延長しても交わらない直線を平行線parallel linesという。

公準

  1. 一点から別の点へ直線を描くことができる。
  2. 直線は無限に延びることができる。
  3. 任意の中心と半径を持つ円を描くことができる。
  4. すべての直角は互いに等しい。
  5. 二本の直線が交わるとき、二つの角の和が二直角より小さいなら、無限に延長すればその側で交わる。

共通概念

  1. 同一のものは等しい。
  2. 等しいものに等しいものを加えると等しい。
  3. 等しいものから等しいものを引くと等しい。
  4. 互いに一致するものは互いに等しい。
  5. 全体は部分より大きい。

説明

これはあくまで参考として見るべきだ。現在では「線分」が直線を意味することもあるし、現代的な観点からは誤りや厳密でない点があるかもしれない。例えば「全体は部分より大きい」は「全体は部分より大きいか等しい」という表現の方が妥当だが、多少気になる点があってもそのまま流してよい。

非ユークリッド幾何

第五の公準はいわゆるプレイフェアの公理Playfair’s axiomとも呼ばれる。

プレイフェアの公理: 直線 $l$ とその外にある点 $p$ に対して、$l$ に平行であって $p$ を通る直線 $m$ が唯一存在する 2

ユークリッドの時代からほぼ2000年、数学者たちはこの公準に疑問を抱き、他の公準から導けないか試みてきた。公準が疑わしいというのは「わざわざ公準にしなくても定理として述べられるのではないか」という意味だ。この論争の転換点は17世紀ごろ、非ユークリッド幾何の先駆者サッケリSaccheriであり、彼はこの公準を否定して、ユークリッド幾何に根ざす数学者たちにとってはかなり間違っているように見える結果を証明できた。

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直観的な例を示すと、プレイフェアの公理は平面上では公準として必要だが、上図のように特定の曲面を想定する場合には成り立たないことがある。

関連項目


  1. Fitzpatrick, R. (2008). Euclid’s elements of geometry. https://farside.ph.utexas.edu/Books/Euclid/Elements.pdf p6. ↩︎

  2. Fitzpatrick, R. (2008). Euclid’s elements of geometry. https://farside.ph.utexas.edu/Books/Euclid/Elements.pdf p13. ↩︎