リアプノフスペクトルの定義
📂動力学リアプノフスペクトルの定義
定義
空間 X=Rn と 函数 f:X→X に対して次のような ベクトル場 が 微分方程式 として与えられているとする。
x˙=f(x)
簡単な定義
フロー FT(v) の時間-1 マップ に対する 多次元マップのリャプノフ数とリャプノフ指数 をそれぞれ FT(v) の リャプノフ数Lyapunov number、リャプノフ指数Lyapunov exponent と定義する。
難しい定義
変分方程式: f の ヤコビアン行列 J に関して次を 変分方程式variational equation とする。
Y˙=JY
ここで 行列函数 Y=Y(t)∈Rn×n の初期条件は 単位行列 Y(0)=I とする。
…
幾何学的に、Y は元のシステムのx(0) から少し動かした x(t) に変わる間に、その 接線ベクトル 自体がどのように作用するかを示していると言える。
λk:=t→∞limlog[(∥v∥∥Y(t,v)v∥)1/t]
このように定義された {λ1,⋯,λn} を リャプノフスペクトルLyapunov spectrum とするか、
Λv:=t→∞lim[Y(t)∗Y(t)]1/2t
このように定義された 行列 Λv の 固有値 μ1,⋯,μn に ログ を取った λk:=logμk をリャプノフスペクトルとする。
- Y∗ は行列 Y の 共役転置行列 である。
説明
実際、両方の定義ともそれほど簡単ではない。実際に連続的なシステムでリャプノフスペクトルというものを理解し扱うことはかなり難しい。
一次元マップのリャプノフ数 と同様に、リャプノフスペクトルのそのモチーフは x0 と x0+δ0 の間の小さな差である δ0 と t 分だけ時間が経った後の差である δt を次のようにある λ に関連した式で表現しようということから始まる。
∣δt∣≈∣δ0∣etλ
t=N 時点で TN という オペレーター が TN:vN↦vN+1 のようにマッピングの役割を果たすとすると、TN が空間を拡張または縮小させる割合の 幾何平均 は次のようになる。
(∥v∥∥T1v∥⋅∥T1v∥∥T2v∥⋅⋯⋅⋅∥TN−1v∥∥TNv∥)1/N=(∥v∥∥TNv∥)1/N
連続的なシステムでは変分章程式の Y が Tn の役割を果たすが、これに従い 正規直交集合 {v1,⋯,vn} の vk に対する k 番目のリャプノフ指数 λk は次のように定義される。
λk:===t→∞limlog[(∥v∥∥Y(t,v)v∥)1/t]t→∞limt1log(∥Y(t,v)v∥−∥v∥)t→∞limt1log∥Y(t,v)v∥
一方で、Y(t,u) の 特異値分解 Y=UΣV∗ に従い k 番目の特異値 σk(t) は U,V の k 番目のカラムベクトル uk,vk に対して次のように表すことができる。
YV=UΣ⟹Yvk=σk(t)uk
これは Y の特異値、すなわち 固有値 に相当する概念がリャプノフスペクトルと関連している手がかりを提供する。実際に Y の左側に Y∗=VΣ∗U∗ を掛けた
Y∗Y=VΣ2V∗
の固有値は σk2(t) であることは難しく推測できないし、
Λv:=t→∞lim[Y(t)∗Y(t)]1/2t
と定義された 行列 Λv の 固有値 μk に ログ を取った logμk はリャプノフスペクトルとなる。前述の Yvk=σk(t)uk と関連付けて考えてみると、
logμk======logt→∞lim[σk2(t)]1/2tt→∞limlog[σk(t)]1/tt→∞limt1logσk(t)t→∞limt1log∥σk(t)u∥t→∞limt1log∥Y(t,v)v∥λk
のように直感として両定義が同じであることを受け入れることができる。