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ユークリッド空間における内積 📂多変数ベクトル解析

ユークリッド空間における内積

定義

ベクトル空間 V=RnV = \mathbb{R}^n について、x,y,zV\mathbf{x}, \mathbf{y}, \mathbf{z} \in V そして kRk \in \mathbb{R} とする。

<,>:V2R\left< \cdot , \cdot \right> : V^2 \to \mathbb{R} が下の四つの条件を満たすとき、<,>\left< \cdot , \cdot \right> を**VV 上の内積**として定義する。

(1) 対称性: <x,y>=<y,x>\left< \mathbf{x} , \mathbf{y} \right> = \left< \mathbf{y}, \mathbf{x} \right>

(2) 加算性: <x+y,z>=<x,z>+<y,z>\left< \mathbf{x} + \mathbf{y} , \mathbf{z} \right> = \left< \mathbf{x}, \mathbf{z} \right> + \left< \mathbf{y}, \mathbf{z} \right>

(3) 斉次性: <kx,y>=k<x,y>\left< k \mathbf{x} , \mathbf{y} \right> = k \left< \mathbf{x}, \mathbf{y} \right>

(4) 正定値性: <x,x>0\left< \mathbf{x} , \mathbf{x} \right> \ge 0 そして <x,x>=0    x=0\left< \mathbf{x} , \mathbf{x} \right> =0 \iff \mathbf{x}=\mathbb{0}

特に x=(x1,x2,,xn)\mathbf{x} = (x_{1}, x_{2}, \cdots , x_{n}) かつ y=(y1,y2,,yn)\mathbf{y} = (y_{1}, y_{2}, \cdots , y_{n}) のとき、

<x,y>=xy=x1y1+x2y2++xnyn=xTy \left< \mathbf{x} , \mathbf{y}\right> = \mathbf{x} \cdot \mathbf{y} = x_{1} y_{1} + x_{2} y_{2} + \cdots + x_{n} y_{n} = \mathbf{x}^T \mathbf{y}

点積またはユークリッド内積と定義する。

説明

もともとベクトル空間自体はどんな体 F\mathbb{F} についても一般化され得る概念である。当然、内積もまた一般化可能だが、基礎レベルの線形代数では通常ユークリッド空間だけを扱うことが普通である。

しかし大学で内積を学ぶ際に混乱する理由は、高等学校レベルの内積よりも十分に一般化されているからである。内積自体を考えた場合、条件を満たす写像が存在すれば、わざわざ成分同士を掛け合わせる必要がない。まず「既に知っていた内積」が「大学で学んだ内積の一つ」である点積になるところから違いが生じる。さらにnn次元について一般化され、幾何学的な性質を失い、大きさやベクトル間の内角の定義が大きな混乱を招くことになる。

  • [1]: x=xx\left\| \mathbf{x} \right\| = \sqrt{ \mathbf{x} \cdot \mathbf{x} } を**x\mathbf{x} の大きさまたは長さ**として定義する。

[2] d(x,y)=xyd(\mathbf{x}, \mathbf{y} ) = \left\| \mathbf{x} - \mathbf{y} \right\| を**x\mathbf{x}y\mathbf{y} の距離**として定義する。

[3] θ[0,π]\theta \in [0 , \pi] について、cosθ=xyxy\displaystyle \cos \theta = {{ \mathbf{x} \cdot \mathbf{y} } \over { \left\| \mathbf{x} \right\| \left\| \mathbf{y} \right\|}} を**x\mathbf{x}y\mathbf{y} 間の内角**として定義する。

[4] xy=0\mathbf{x} \cdot \mathbf{y} = 0 の時、x\mathbf{x}y\mathbf{y} は垂直であると定義する。

3次元までは直接計算し、描きながらこれらの定義が直感と一致していることを確認できるが、4次元からはそれが不可能である。しかし、このように超越的な一般化がちょうど数学の魅力であり、強みであり、これらの定義だけでもいくつかの定理を容易に一般化することができる。以下の二つの例を見よ。

一般化された コーシー-シュワルツの不等式

xy<x,y> \left\| \mathbf{x} \right\| \left\| \mathbf{y} \right\| \ge \left< \mathbf{x} , \mathbf{y} \right>


コーシー-シュワルツの不等式はもともと四つの未知数に対して成り立っていた不等式だが、内積を用いることで簡単に一般化できる。

証明

任意のスカラー tRt \in \mathbb{R} に対して、

(tx+y)2=t2(xx)+2t(xy)+(yy) ( t \mathbf{x} + \mathbf{y} ) ^2 = t^2 (\mathbf{x} \cdot \mathbf{x}) + 2t (\mathbf{x} \cdot \mathbf{y} )+ ( \mathbf{y} \cdot \mathbf{y} )

tt は実数であるため、二次方程式の解の公式により (xy)2(xx)(yy)0(\mathbf{x} \cdot \mathbf{y})^2 - ( \mathbf{x} \cdot \mathbf{x} )( \mathbf{y} \cdot \mathbf{y} ) \le 0 でなければならない。

一般化された ピタゴラスの定理

二つのベクトル x\mathbf{x}y\mathbf{y} が互いに垂直であるとすると、x2+y2=x+y2\left\| \mathbf{x} \right\|^2 + \left\| \mathbf{y} \right\|^2 = \left\| \mathbf{x} +\mathbf{y} \right\|^2


ピタゴラスの定理ももとは平面上の三角形に対して成立する定理であった。一般化するためには、次元を上げるごとに低い次元のピタゴラスの定理を続けて使う必要があったが、内積を使えばはるかに簡単で簡潔である。

証明

x+y2=(x+y)2=(xx)+2(xy)+(yy)=x2+2(xy)+y2 \begin{align*} \left\| \mathbf{x} +\mathbf{y} \right\|^2 =& ( \mathbf{x} + \mathbf{y} ) ^2 \\ =& (\mathbf{x} \cdot \mathbf{x}) + 2 (\mathbf{x} \cdot \mathbf{y} )+ ( \mathbf{y} \cdot \mathbf{y} ) \\ &= \left\| \mathbf{x} \right\|^2 + 2 (\mathbf{x} \cdot \mathbf{y} ) + \left\| \mathbf{y} \right\|^2 \end{align*}

内角の定義により (xy)=cosθx2y2(\mathbf{x} \cdot \mathbf{y} ) = \cos{\theta} \left\| \mathbf{x} \right\|^2 \left\| \mathbf{y} \right\|^2 であり、x\mathbf{x}y\mathbf{y} が互いに垂直であるため、cosθ=0\cos{\theta} = 0

より一般化されたピタゴラスの定理

a1, a2, , an\mathbf{a}_1,\ \mathbf{a}_2,\ \cdots,\ \mathbf{a}_n が互いに垂直なベクトルであるとする。すると、以下の式が成立する。

a1+a2++an2=a12+a22++an2 \left\| \mathbf{a}_1+\mathbf{a}_2+\cdots+\mathbf{a}_n \right\|^2 = \left\| \mathbf{a}_1 \right\|^2 + \left\| \mathbf{a}_2 \right\|^2 +\cdots+ \left\| \mathbf{a}_n \right\|^2


上の定理はnn個のベクトルに対して一般化したものである。

証明

上で定義された通り、以下が成り立つ。

a1+a2++an2=<a1+a2++an, a1+a2++an> \left\| \mathbf{a}_1+\mathbf{a}_2+\cdots+\mathbf{a}_n \right\| ^2=\left< \mathbf{a}_1 + \mathbf{a}_2 + \cdots + \mathbf{a}_n,\ \mathbf{a}_1 + \mathbf{a}_2+\cdots+\mathbf{a}_n \right>

内積の加算性により、上の内積を展開すると以下のようになる。

<a1, a1>+<a1, a2>++<a1, an>+<a2, a1>+<a2, a2>++<a2, an>++<an, a1>+<an, a2>++<an, an> \begin{array} {l} \left< \mathbf{a}_1,\ \mathbf{a}_1 \right>+\left< \mathbf{a}_1,\ \mathbf{a}_2 \right>+\cdots+\left< \mathbf{a}_1,\ \mathbf{a}_n \right> \\ + \left< \mathbf{a}_2,\ \mathbf{a}_1 \right> + \left< \mathbf{a}_2,\ \mathbf{a}_2 \right>+\cdots+\left< \mathbf{a}_2,\ \mathbf{a}_n \right> \\ +\cdots \\ + \left< \mathbf{a}_n,\ \mathbf{a}_1 \right>+\left< \mathbf{a}_n,\ \mathbf{a}_2 \right>+\cdots +\left< \mathbf{a}_n,\ \mathbf{a}_n \right> \end{array}

仮定により<ai, aj>=δij\left< \mathbf{a}_i,\ \mathbf{a}_j \right>=\delta_{ij} なので、同じベクトル同士の内積のみ残り、その他は00 である。したがって、

a1+a2++an2=<a1, a1>+<a2, a2>++<an, an>=a12+a22++an2 \begin{align*} \left\| \mathbf{a}_1+\mathbf{a}_2+\cdots+\mathbf{a}_n \right\|^2 =& \left< \mathbf{a}_1,\ \mathbf{a}_1 \right> + \left< \mathbf{a}_2,\ \mathbf{a}_2 \right>+\cdots+\left< \mathbf{a}_n,\ \mathbf{a}_n \right> \\ =& \left\| \mathbf{a}_1 \right\|^2 + \left\| \mathbf{a}_2 \right\|^2 +\cdots+\left\| \mathbf{a}_n \right\|^2 \end{align*}