SIRVモデル:ワクチンと突破感染
📂動力学SIRVモデル:ワクチンと突破感染
概要
SIRV モデルは、SIR モデルにワクチンを追加した疫学コンパートメントモデルです。
モデル

dtdS=dtdI=dtdR=dtdV=−NβIS−vSNβSI−μIμIvS
変数
- S(t): t 時点で病気にかかりうるsusceptible集団の個体数を示す。
- I(t): t 時点で病気を伝染させうるinfectious集団の個体数を示す。
- R(t): t 時点で回復したrecovered集団の個体数を示す。
- V(t): t 時点でワクチン接種されたvaccinated集団の個体数を示す。
- N(t)=S(t)+I(t)+R(t)+V(t): 総個体数を示す。
パラメータ
- β>0: 伝染率infection rate。
- μ>0: 回復率recovery rate。
- v>0: ワクチン供給vaccine supply。
説明
マラリアmalariaはアノフェレス属の蚊によって媒介される人類史上最悪の感染症の一つであり、現在でも世界中で約2億人の患者がこの病気で苦しんでいる。マラリアを撃退する方法の一つは、媒介者である蚊を絶滅させることだが、それが可能であれば既に実施されていただろうし、現実には実行が難しい戦略だ。
このような難問に対する一つの解決策が、ワクチン及び予防薬だ。通常は長い時間が必要な方法であり、根本的に問題を解決するわけではないが、S の数を減らし、病気の伝播がこれ以上進まない程度にするというアプローチだ。そして、存在しているS を殺すわけではなく(可能であってもI を殺す方が効果的だが)、ワクチンを通じてS をV に変えて伝染力force of infection βSI を間接的に下げること。
集団免疫
前の段落に続き、集団の大多数が免疫を持つことで病気の伝播が停止することを集団免疫herd immunityという。病気にかかった後に免疫ができるのか、ワクチンで免疫ができるのかに関わらず集団免疫と呼ぶが、前者であれば病気に負けたということになる。したがって、集団免疫とは一般にワクチンによる予防戦略を指す。この表現は、実際には全ての個人が免疫を持っていなくても、集団的に病気の拡散を停止するという意味からきている。
さらに、全体の集団の中でワクチン接種された割合 C=V(t)/N(t) をカバレッジcoverageと呼ぶが、自然に集団免疫を形成する最小限のカバレッジ C∗ に関心を持つようになる。これは、別の言い方をすると、ワクチンを通じて実効再生産数 Rを1 以下に下げる値を見つけることを意味する。実効再生産数は主に、基本再生産数 R0に全体の中でS が占める比率S/N を乗じて求められるが、感染が始まった時点でN(0)=S(0)+V(0) であれば、私たちの目標は
R===R0NSR0(1−NV)R0(1−C)<1
を満たす最小値 C=C∗ を見つけることである。簡単に計算すると
R0(1−C∗)<1⟺C∗=R0R0−1
例えば、1956年から1968年までのイギリスとウェールズのはしかmeaslesでは、基本再生産数 R0 が13 に達し、これを防ぐための最小限のカバレッジは約92% になる。
C∗=1313−1≈92.3077⋯≈92%
変形
ワクチン突破感染

最初に提示されたモデルは、ワクチン接種で病気にかかることは決してないとしたが、実際にはワクチン接種にもかかわらず病気にかかるワクチン突破感染breakthrough infectionが報告されている。ワクチンの効果σ を0 から1 の間の値として表すならば、ワクチン突破感染を考慮したモデルは次のように示すことができる。
dtdS=dtdI=dtdR=dtdV=−NβIS−vSNβ(S+(1−σ)V)I−μIμI−Nβ(1−σ)IV+vS
ワクチン突破感染を考慮しないモデルでは、効果はσ=1 と見なされる。