二重数
📂抽象代数二重数
定義
ϵ2=0(ϵ=0)を満たすϵに対して、次のような形を二重数dual numbersと言う。
a+bϵ,a,b∈R
説明
定義を見ればわかるように、ϵは順序対の第二次元を作る点で複素数のiと似た役割をする。当然、その性質は全く異なる。
x+yi=(x,y)a+bϵ=(a,b)
二重数はその自体でも純粋数学的に興味深く重要な意味を持つ一方で、応用数学でも重要なところに活用されるため、非常に面白い対象だと考えられる。
純粋数学的側面
定義のϵは0ではないが、平方すると0になる数なので、零因子zero divisorである。すなわち整数環integral domainではないところを選ばなければならない。このようなϵから作られた二重数の集合は環ringを成すが、二重数x,yについてxy=0となるためにはxとyのどちらか一方が0+0ϵでなければならない。すなわち二重数の集合は整数環である。言い換えれば、二重数を定義して演算を与えて環を作る過程は、整数環ではない環から整数環を作る方法である。
応用数学的側面
二重数の演算は微分係数の観点から見たときに非常に面白い性質を持っている。第2成分が微分係数となり、加法と乗法について微分係数が保存されるということである。微分可能な関数f:R→Rについて適切に定義すれば、関数に代入することと関数の合成でも微分係数がよく保存されることを確認できる。このような特徴のおかげで二重数は非常に純粋数学的な対象であるが、ディープラーニングで人工ニューラルネットワークを最適化する時に使用される逆伝播アルゴリズムで微分係数を計算する方式である自動微分に応用することができる。
双数の概念は、代数とは全く関係がないと思われる確率微分方程式でも現れます。具体的には、ウィーナー過程 ( W_t ) を扱う際に登場する非常に小さい微小区間 ( dt ) と ( dW_t ) の間の演算である伊藤の乗法表がこれに該当します。ここで、( dt > 0 ) は明らかに正ですが、その二乗以降は非常に小さいため無視できると仮定します。このような解析的に厳密でない仮定が抽象代数によって裏付けられるという点が非常に興味深いです。
演算
二重数の集合に下記のような2つの演算を与えると、その集合は環を成す。
加法
二重数a+bϵとc+dϵの加法は次のように定義される。
(a+bϵ)+(c+dϵ)=(a+c)+(b+d)ϵ
二重数a+bϵを順序対(a,b)のように表すと、加法は単に成分ごとの和を取ることと同じである。
(a,b)+(c,d)=(a+c,b+d)=(a+c)+(b+d)ϵ
加法に対する逆元は常に存在し、a+bϵの逆元は次のようである。
−(a+bϵ)=(−a)+(−b)ϵ
乗法
二重数a+bϵとc+dϵの乗法は次のように定義される。
(a+bϵ)(c+dϵ)=ac+(bc+ad)ϵ
以下のように分配律を適用するように乗じて整理した結果と同じである。
(a+bϵ)(c+dϵ)=ac+adϵ+dcϵ+bdϵ2=ac+(bc+ad)ϵ
順序対で表すと次のようである。
(a,b)(c,d)=(ac,bc+ad)
複素数の乗法と比較すると似た形状だが、−bdがない点が異なる。
(a+bi)(c+di)=ac−bd+(bc+ad)i
a=0であるa+bϵについて乗法の逆元が存在し、次のようである。
(a+bϵ)−1=a1−a2bϵ
実際に計算してみると、
(a+bϵ)(a1−a2bϵ)=a⋅a1+(b⋅a1−a⋅a2b)ϵ=1+(ab−ab)ϵ=1
関連項目