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ディリクレ積の逆수 📂整数論

ディリクレ積の逆수

定義 1

算術関数 $f$ に対して、以下を満たす算術関数 $f^{-1}$ が一意に存在する場合、$f^{-1}$ を $f$ の**(ディリクレ)逆**という。 $$ f \ast\ f^{-1} = f^{-1} \ast\ f = I $$


定理

  • [1]: 算術関数 $f$ が $f(1) \ne 0$ の場合、その逆 $f^{-1}$ が一意に存在し、以下のような再帰関数で表される。 $$ f^{-1}(n) = \begin{cases} \displaystyle {{1} \over {f(1)}} &,n=1 \\ \displaystyle {{-1} \over {f(1)}} \sum_{d \mid n , d < n } f \left( {{ n } \over { d }} \right) f^{-1}(d) &, n > 1\end{cases} $$
  • [2]: 二つの算術関数 $f$、$g$ に対して $f(1) \ne 0$、$g(1) \ne 0$ が満たされる場合、 $$ (f \ast\ g)^{-1} = g^{-1} \ast\ f^{-1} = f^{-1} \ast\ g^{-1} $$

説明

ほとんどの数学で扱われる逆関数と違い、ディリクレ逆は写像の逆ではなく、代数的なセンスでの逆を指す。自然に代数的構造が思い浮かび、その存在性と一意性も気になるだろう。幸いなことに、逆の存在性は非常に単純な条件を満たすことで充分である。

特に乗法的算術関数の場合、以下の理由から逆の存在性が確実に保証される。 $$ f(1) = f(1 \cdot 1 ) = f(1) f(1) = 1 \ne 0 $$ これらの事実から、算術関数の集合がアーベル群となる条件は $f(1) \ne 0$ になる。

証明

[1]

$\displaystyle I(n) = \left[ {{ 1 } \over { n }} \right]$ なので、$n=1$ の時 $\left( f \ast\ f^{-1} \right)(1) = I(1) = 1$ であり、したがって $\displaystyle f^{-1}(1) = {{ 1 } \over { f(1) }}$ である。$f(1) \ne 0$ なので、$f^{-1}(1)$ も一意である。$n >1$ ならば $\left( f \ast\ f^{-1} \right)(n) = I(n) = 0$ なので、 $$ \sum_{d \mid n} f \left( {{ n } \over { d }} \right) f^{-1} (d) = 0 $$ $n=d$ である項を除けば、 $$ f(1) f^{-1}(n) + \sum_{d \mid n \\ d < n} f \left( {{ n } \over { d }} \right) f^{-1} (d) = 0 $$ 整理すると、 $$ f^{-1}(n) = {{-1} \over {f(1)}} \sum_{d \mid n \\ d < n } f \left( {{ n } \over { d }} \right) f^{-1}(d) $$ 先に $n=1$ の場合に $f^{-1}(1) \ne 0$ が一意に存在することを示したので、数学的帰納法により、$f^{-1}(n)$ も一意に存在する。

[2]

戦略: 存在性を証明すれば、畳み込みの性質により直接計算できる。

畳み込みの性質:

  • (1) 結合法則: $$ \left( f \ast g \right) \ast k = f \ast (g \ast k) $$
  • (2) 交換法則: $$ f \ast\ g = g \ast\ f $$

上記の[1]により、$f(1) \ne 0$ かつ $g(1) \ne 0$ であるため、$f^{-1}$ と $g^{-1}$ は一意に存在する。同様に、 $$ (f \ast\ g) (1) = \sum_{ d \mid 1} f(d)g(1/d) = f(1) g(1) \ne 0 $$ したがって、$\left( f \ast g \right)^{-1}$ も一意に存在する。そうすると、畳み込みの結合法則により、 $$ \begin{align*} (f \ast\ g) \ast ( g^{-1} \ast\ f^{-1} ) =& f \ast (g * g^{-1} ) \ast\ f^{-1} \\ =& f \ast\ I \ast\ f^{-1} \\ =& f * f^{-1} \\ =& I \end{align*} $$ $\left( f \ast g \right)^{-1}$ は一意であるため、$\left( f \ast g \right)^{-1} = g^{-1} \ast\ f^{-1}$ でなければならない。また、畳み込みの交換法則により、 $$ (f \ast\ g)^{-1} = g^{-1} \ast\ f^{-1} = f^{-1} \ast\ g^{-1} $$


  1. Apostol. (1976). Introduction to Analytic Number Theory: p30. ↩︎