logo

力学系のアトラクタ 📂動力学

力学系のアトラクタ

ビルドアップ

空間 $X$ と関数 $f,g : X \to X$ に対して、ベクトル場とマップは次のように表されるとしよう。 $$ \dot{x} = f(x) \\ x \mapsto g(x) $$

$\phi (t, \cdot)$ はベクトル場 $\dot{x} = f(x)$ のフローを、$g^{n}$ はマップ $g$ を $n$ 回取ったマップを意味することにしよう。

ノンワンダリングの定義1

点 $x_{0} \in X$ が以下の条件を満たすならノンワンダリング点と呼ばれ、そのような点の集合をノンワンダリングセットという。

  • (V): $x_{0}$ の全ての近傍 $U$ と全ての $T > 0$ に対して、次を満たす $t > T$ が存在する。 $$ \phi (t,U) \cap U \ne \emptyset $$
  • (M): $x_{0}$ の全ての近傍 $U$ と全ての $T > 0$ に対して、次を満たす $n \in \mathbb{N}$ が存在する。 $$ g^{n} (U) \cap U \ne \emptyset $$

過去の時点まで考えると、上記の定義はそれぞれ $|t| > T$、$n \in \mathbb{Z}^{ \ast }$ に変わる。

ノンワンダリングについての説明

ノンワンダリングセットとは、その名の通り去ってもいずれは戻ってくる点を集めたセットである。固定点や周期軌道はそもそも去らないので自明なノンワンダリングセットである。ノンワンダリングセットは、特に行くべき場所を言わないが、何かの時点で必ず戻ってくるべきという弱い条件を持っている。

アトラクティングの定義2

閉じた不変集合 $A \subset \mathbb{R}^{n}$ が、以下の条件を満たす$A$ の近傍 $U$ を持つならば、アトラクティングセットと呼ばれ、その時のオープンセット $U$ をトラッピングリージョンという。

  • (V): $\forall t \ge 0$ に対して、$\phi (t , U) \subset U$ であり、 $$ \bigcap_{t > 0} \phi (t, U) = A $$
  • (M): $\forall n \ge 0$ に対して、$g^{n} (U) \subset U$ であり、 $$ \bigcap_{t > 0} g^{n} (U) = A $$

アトラクティングについての説明

アトラクティングセットの定義を見るとすぐに、ノンワンダリングセットとの違いがわかる。第一に、トラッピングリージョン $U$ という具体的な境界が存在して、そこを離れることができず、無限の時間が経過した後、正確に $A$ それ自体にならなければならないことである。これは、$A$ が $U$ に閉じ込められていると同時に、それを自分に引き寄せるので、アトラクティングセットという名称が適切であることがわかる。

アトラクターの定義3

閉じた不変集合 $A$ が、全てのオープンセット $V_{1},V_{2} \subset A$ に対して次を満たすならば、位相的に推移的とされる。

  • (V): $\phi \left( t, V_{1} \right) \cap V_{2} \ne \emptyset$ であるような $t \in \mathbb{R}$ が存在する。
  • (M): $g^{n} \left( V_{1} \right) \cap V_{2} \ne \emptyset$ であるような $n \in \mathbb{Z}$ が存在する。

アトラクティングセットが位相的に推移的ならば、アトラクターと呼ばれる。

アトラクターについての説明

位相的推移性の定義で、「全ての」オープンセット $V_{1} , V_{2}$ というのは、どれだけ小さく持って来ても存在していなければならないことを意味するので、実際にフローやマップが十分な時間を与えられれば、正確に $V_{1}$ を $V_{2}$ に送ることができるということである。しかし、実際に二点が出会うことになったら、それは単純な周期軌道にすぎず、オープンセットの概念を用いて「すれ違う」ということを表現している。この位相的推移性が追加されることにより、アトラクティングセットはトラッピングリージョン $U$ を集めるだけでは足りなかった様々な性質を確保することができるようになる。


  1. Wiggins. (2003). Introduction to Applied Nonlinear Dynamical Systems and Chaos Second Edition(2nd Edition): p106. ↩︎

  2. Wiggins. (2003). Introduction to Applied Nonlinear Dynamical Systems and Chaos Second Edition(2nd Edition): p107. ↩︎

  3. Wiggins. (2003). Introduction to Applied Nonlinear Dynamical Systems and Chaos Second Edition(2nd Edition): p110. ↩︎