タイト確率測度
定義
空間$S$が距離空間$( S , \rho)$であり、かつ可測空間$(S,\mathcal{B}(S))$であるとする。
$P$が$S$で定義された確率測度であるとする。全ての$\varepsilon > 0$に対して$P(K) > 1 - \varepsilon$を満たすようなコンパクト集合$K$が存在すれば、$P$はタイトtightと言われる。
説明
一般に、学部レベルの確率論では、タイトではない確率測度に出会うことはあまりない。例えば、正規分布に従う確率変数$X$から導かれる確率測度$P_{X}$があるなら、$\varepsilon>0$がどうであれ$P(K) > 1 - \varepsilon$を満たすバウンデッドクローズド集合$K$が存在しかねないし、ハイネ・ボレルの定理によって$K$はコンパクトであり、その結果$P_{X}$がタイトであることも示せる。実は、$\mathbb{R}$上で定義された確率変数によって導かれる全ての確率測度はタイトでもある。
こうしたタイトという概念を考える理由は、明らかに集合がコンパクトであることは扱いやすいからだ。$K$がコンパクトであるとは、これを有限なオープンカバーに分割して考えられるということだ。
次の定理では、$A$が何であれ$P\left( K_{n} \right) \to P(A)$を満たすようなコンパクト集合のシーケンス$\left\{ K_n \right\}_{n \in \mathbb{N}}$が存在することが保証される。コンパクト集合は有限に分割できるので、非常に扱いやすかったことを考えると、タイトという条件は非常に良いと言わざるを得ない。
定理
$P$がタイトである$\iff$全ての$A \in \mathcal{B}(S)$に対して$\displaystyle P(A) = \sup_{ K : \text{compact set}} \left\{ P(K) : K \subset A \right\}$
証明
$P$が$(S,\mathcal{B}(S))$で定義された確率であるとしよう。そうすると、全ての$A \in \mathcal{B}(S)$と$\varepsilon>0$に対して、次を満たす閉集合$F_{\varepsilon}$と開集合$G_{\varepsilon}$が存在する。 $$ F_{\varepsilon}\subset A \subset G_{\varepsilon} \\ P ( G_{\varepsilon} \setminus F_{\varepsilon}) < \varepsilon $$ 上記の性質により、$P(A) - P (F_{\varepsilon}) < \varepsilon$を満たすクローズドセット$F_{\varepsilon} \subset A$が存在する。さらに$P$はタイトなので、$P(K) > 1 - \varepsilon \iff P(K^{c}) < \varepsilon$を満たすコンパクトセット$K$が存在する。 $$ P(A) \le P(F_{\varepsilon}) + \varepsilon $$ ここで$F_{\varepsilon}$を以下のように分割すれば $$ P(A) \le P \left( F_{\varepsilon} \cap K \right) + P \left( F \setminus K \right) + \varepsilon $$ ここで、 $$ \begin{align*} P \left( F \setminus K \right) =& P \left( \Omega \setminus K \right) \\ =& P(K^{c}) \\ <& \varepsilon \end{align*} $$ したがって、 $$ P(A) \le P \left( F_{\varepsilon} \cap K \right) + 2 \varepsilon $$
コンパクト集合の性質: コンパクト集合$K$の部分集合$F$が閉集合であれば、$F$はコンパクト集合である。
もちろん$F_{\varepsilon} \cap K \subset K$は閉集合なので、コンパクト集合であり、それゆえ全ての$\varepsilon>0$に対して、次を満たすコンパクトセット$F_{\varepsilon} \cap K$が存在する。 $$ P(A) \le P \left( F_{\varepsilon} \cap K \right) + 2 \varepsilon \\ F_{\varepsilon} \cap K \subset A $$ したがって、全ての$A \in \mathcal{B}(S)$に対しても$\displaystyle P(A) = \sup_{ K : \text{compact set}} \left\{ P(K) : K \subset A \right\} $$ (\Leftarrow) $$ \Omega \in \mathcal{B}(S)$について $$ 1 = P ( \Omega ) = \sup_{ K : \text{compact set}} \left\{ P(K) : K \subset \Omega \right\} $$ したがって、$\varepsilon > 0$が何であれ$P(K) > 1 - \varepsilon$を満たすコンパクトセット$K$は存在する。
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