確率過程における停止時間
定義
確率空間 $( \Omega , \mathcal{F} , P)$が与えられているとしよう。フィルトレーション $\left\{ \mathcal{F}_{n} \right\}$に関して$0$以上の整数値を持ち、全ての$n \in \mathbb{N}_{0}$に対して$(\tau = n) \in \mathcal{F}_{n}$を満たす確率変数$\tau$を停止時間stopping Timeと呼ぶ。
- ボレル集合 $B \in \mathcal{B}(\mathbb{R})$に対して、$(\tau \in B) = \tau^{-1} (B)$は、したがって$\tau^{-1} ( \left\{ n \right\} )$と同じである。
例
停止時間の直感的な概念は、興味のあるイベントが起こる―観察される瞬間を指す。例えば、$\tau = 8$は情報$\mathcal{F}_{8}$を知りながら興味のあるイベントが$n=8$で起きたことを意味する。一見、停止時間の条件は簡単すぎるように見えるかもしれない。しかし、全ての$n \in \mathbb{N}_{0}$に対して満足しなければならない点が難題となる。
$Y_{1}, Y_{2} , \cdots \overset{iid}{\sim} B(1,p)$としよう。つまり、各$Y_{n}$が確率$p$のベルヌーイ分布に従うとし、$Y_{5}$までの結果が以下のようだとしよう。 $$ \begin{matrix} Y_{1} & Y_{2} & Y_{3} & Y_{4} & Y_{5} \\ 0 & 0 & 1 & 0 & 1 \end{matrix} $$
(1) 停止時間でない場合: $\tau$を$\tau:= \max \left\{ k: Y_{k} = 0 \right\}$と置いた場合、上記のケースでは以下のように$\tau$が計算される。 $$ \begin{matrix} Y_{1} & Y_{2} & Y_{3} & Y_{4} & Y_{5} \\ 0 & 0 & 1 & 0 & 1 \\ \tau = 1 & \tau = 2 & \tau = 2 & \tau = 4 & \tau = 5 \end{matrix} $$ ここで、$\tau$は以下を満たさなければ停止時間になれない。 $$ (\tau = n ) = \left( Y_{n} = 0 , Y_{n+1} = 1 , \cdots \right) $$ これは正確に$Y_{n} = 0$であり、その後は必ず$1$でなければならないが、どんなに$n \in \mathbb{N}$があってもまだ試行もしていないので結果を知ることはできない。したがって、$\tau$は停止時間になれない。
(2) 停止時間になる場合: $\tau$を$\tau:= \min \left\{ k: Y_{k} = 1 \right\}$と置いた場合、上記のケースでは以下のように$\tau$が計算される。 $$ \begin{matrix} Y_{1} & Y_{2} & Y_{3} & Y_{4} & Y_{5} \\ 0 & 0 & 1 & 0 & 1 \\ \tau = 0 & \tau = 0 & \tau = 3 & \tau = 3 & \tau = 3 \end{matrix} $$ $\tau$はすでに$n=3$で興味のあるイベントが起きてしまっており、未来に何が出ても関係なくなり、停止時間になる。
説明
上記の例で、$\max$は停止時間に適さなかったが、$\min$は停止時間になったことに注目しよう。この意味で、停止時間は「何かが初めて起こるタイミング」と直感的に考えることができるべきだ。一方で、数学的に厳密な定義では、$\tau$はまだ確率変数であることも忘れてはならない。確率過程 $\left\{ X_{n} \right\}_{n \in \mathbb{N}_{0}}$が与えられている場合、$X_{\tau}$に対して$\omega \in \Omega$は以下を意味する。 $$ X_{\tau} = X_{\tau} ( \omega )= X_{\tau (\omega)} ( \omega ) $$ 例えば、$\tau (\omega_{1}) = 5$ならば、$X_{\tau} (\omega_{1}) = X_{5} ( \omega_{1})$となる式である。$\tau$は結局のところ「いつかイベントが起こるかもしれない」と示す確率変数であり、“停止時間"と呼ばれる前に、すべての$\omega \in \Omega$をそれぞれ何らかの$n \in \mathbb{N}_{0}$にマッピングする「関数」である。直感的な理解に固執してこの点を忘れると、停止時間を用いる全ての式展開が苦痛になる。よく覚えておこう。