マルチンゲールの定義
📂確率論マルチンゲールの定義
定義
確率空間 (Ω,F,P) が与えられたとする。
- F のサブσフィールドのシーケンス {Fn}n∈N が以下を満たす場合、フィルトレーションfiltrationと呼ぶ。
∀n∈N,Fn⊂Fn+1
- フィルトレーション {Fn}n∈N が与えられた時、ルベーグ可積分な Fn-可測確率変数 Xn のシーケンス {Xn}n∈N が形成する順序対のシーケンス {(Xn,Fn)} が以下を満たす場合、マルチンゲールと言う。
∀n∈N,E(Xn+1∣Fn)=Xn
- Fn が F のサブσフィールドであるとは、両方とも Ω のσフィールドであるが、Fn⊂F を意味する。
- Xn が Fn-可測関数であるとは、全てのボレル集合 B∈B(R) に対して Xn−1(B)∈Fn であることを意味する。
説明
それぞれ サブマルチンゲール、スーパーマルチンゲールとは以下のように言う。不等式は右辺が小さくなるとサブ、大きくなるとスーパーと覚えると混乱しない。
∀n∈N,E(Xn+1∣Fn)≥Xn∀n∈N,E(Xn+1∣Fn)≤Xn
もちろん、サブマルチンゲールでありスーパーマルチンゲールでもある場合は、マルチンゲールと同等である。だから、サブマルチンゲールもしくはスーパーマルチンゲールに当てはまる定理があれば、マルチンゲールにもそのまま適用できる。
マルチンゲールを直感的に理解することは、σフィールドを事件の集合、「情報」として考えることから始まる:
- フィルトレーション:∀n∈N,Fn⊂Fn+1、つまりσフィールドが大きいということは、それだけ多くの情報があるという意味だ。マルチンゲールの定義では、プロセス Xn が Fn-可測であることは、実際のデータ xn が観測されるにつれてσフィールド Fn も広がりn 回までの全ての情報を得たと見なしてもよいということだ。
- マルチンゲール:∀n∈N,E(Xn+1∣Fn)=Xn とは、n 回までの情報 Fn を知っている時、次の状況である Xn+1 もXn と似ていると仮定することを意味する。Xn+1 の期待値がこれまでに得た Fn とは無関係に算出されるのであれば、このような確率過程はホワイトノイズと変わらないし、統計的分析の対象にはならない。だから、マルチンゲールの直感的な定義は「私たちが何か有利な情報を持っていて、数学的、統計的により良い結果を知ることができる確率過程」と言える。
起源
「マルティグ」のフランスの村では、いわゆる「二倍返し戦略」が流行していた。一回負けたら、その損失を補うためにより大きな賭けを繰り返す方式で、心理的な面はさておき、これが本当に賢い戦略かどうか考える必要がある。数学的に見ると、このような戦略の本質は
E(Xn+1∣X1,⋯,Xn)=Xn+1
の式で要約できる。「これまでずっと負けてきたから、今回は勝つだろう」と賭博師の誤謬を指摘し、なぜマルチンゲールベッティングが意味をなさないかを説明する。
例
(1)
自己回帰過程 AR(1) Xn+1=Xn+εn を考えよう。フィルトレーションが与えられている場合、Xn に対する情報をすべて知っているので、条件付き期待値の性質により
E(Xn+1∣Fn)=====E(Xn+εn∣Fn)E(Xn∣Fn)+E(εn∣Fn)Xn+E(εn∣Fn)Xn+E(εn)Xn
となるので、{(Xn,Fn)} はマルチンゲールとなる。
(2)
{Xn}n∈N が互いに独立であり、E(Xn)=0 であり、Sn:=i=1∑nXi とする。その場合
E(Sn+1∣Fn)===Sn+E(Xn+1∣Fn)Sn+E(Xn+1)Sn+0
となるので、{(Sn,Fn)} はマルチンゲールとなる。
一方で、マルチンゲールと凸関数 ϕ が与えられた場合、上記のようにサブマルチンゲールを作り出すことができる。
定理
マルチンゲール {(Xn,Fn)} と凸関数 ϕ:R→R に対して、(ϕ(Xn),Fn) はサブマルチンゲールである。
証明
条件付きジェンセンの不等式:確率空間 (Ω,F,P) とサブσフィールド G⊂F が与えられ、Xが確率変数であるとする。凸関数 ϕ:R→R と ϕ(X)∈L1(Ω)に対して
ϕ(E(X∣G))≤E(ϕ(X)∣G)
条件付きジェンセンの不等式により
E(ϕ(Xn+1)∣Fn)≥ϕ(E(Xn+1∣Fn))=ϕ(Xn)
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結論
この定理の結論として、p≥1 を ϕ(x)=∣x∣p として設定すると、{∣Xn∣p,Fn} は常にサブマルチンゲールであることが分かる。
関連項目
様々なフィルトレーション
A1⊂A2⊂⋯⊂An⊂⋯
一般的に数学全般で、上記のようなネステッドシーケンスnested Sequenceを形成する構造をフィルトレーションfiltrationと使用する。