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マルチンゲールの定義 📂確率論

マルチンゲールの定義

定義

確率空間 $( \Omega , \mathcal{F} , P)$ が与えられたとする。

  1. $\mathcal{F}$ のサブσフィールドのシーケンス $\left\{ \mathcal{F}_{n} \right\}_{n \in \mathbb{N}}$ が以下を満たす場合、フィルトレーションfiltrationと呼ぶ。 $$ \forall n \in \mathbb{N}, \mathcal{F}_{n} \subset \mathcal{F}_{n+1} $$
  2. フィルトレーション $\left\{ \mathcal{F}_{n} \right\}_{n \in \mathbb{N}}$ が与えられた時、ルベーグ可積分な $\mathcal{F}_{n}$-可測確率変数 $X_{n}$ のシーケンス $\left\{ X_{n} \right\}_{n \in \mathbb{N}}$ が形成する順序対のシーケンス $\left\{ (X_{n}, \mathcal{F}_{n}) \right\}$ が以下を満たす場合、マルチンゲールと言う。 $$ \forall n \in \mathbb{N}, E \left( X_{n+1} | \mathcal{F}_{n} \right) = X_{n} $$

  • $\mathcal{F}_{n}$ が $\mathcal{F}$ のサブσフィールドであるとは、両方とも $\Omega$ のσフィールドであるが、$\mathcal{F}_{n} \subset \mathcal{F}$ を意味する。
  • $X_{n}$ が $\mathcal{F}_{n}$-可測関数であるとは、全てのボレル集合 $B \in \mathcal{B}(\mathbb{R})$ に対して $X_{n}^{-1} (B) \in \mathcal{F}_{n}$ であることを意味する。

説明

それぞれ サブマルチンゲールスーパーマルチンゲールとは以下のように言う。不等式は右辺が小さくなるとサブ、大きくなるとスーパーと覚えると混乱しない。 $$ \forall n \in \mathbb{N}, E \left( X_{n+1} | \mathcal{F}_{n} \right) \ge X_{n} \\ \forall n \in \mathbb{N}, E \left( X_{n+1} | \mathcal{F}_{n} \right) \le X_{n} $$ もちろん、サブマルチンゲールでありスーパーマルチンゲールでもある場合は、マルチンゲールと同等である。だから、サブマルチンゲールもしくはスーパーマルチンゲールに当てはまる定理があれば、マルチンゲールにもそのまま適用できる。

マルチンゲールを直感的に理解することは、σフィールドを事件の集合、「情報」として考えることから始まる:

  1. フィルトレーション:$\forall n \in \mathbb{N}, \mathcal{F}_{n} \subset \mathcal{F}_{n+1}$、つまりσフィールドが大きいということは、それだけ多くの情報があるという意味だ。マルチンゲールの定義では、プロセス $X_{n}$ が $\mathcal{F}_{n}$-可測であることは、実際のデータ $x_{n}$ が観測されるにつれてσフィールド $\mathcal{F}_{n}$ も広がり$n$ 回までの全ての情報を得たと見なしてもよいということだ。
  2. マルチンゲール:$\forall n \in \mathbb{N}, E \left( X_{n+1} | \mathcal{F}_{n} \right) = X_{n}$ とは、$n$ 回までの情報 $\mathcal{F}_{n}$ を知っている時、次の状況である $X_{n+1}$ も$X_{n}$ と似ていると仮定することを意味する。$X_{n+1}$ の期待値がこれまでに得た $\mathcal{F}_{n}$ とは無関係に算出されるのであれば、このような確率過程はホワイトノイズと変わらないし、統計的分析の対象にはならない。だから、マルチンゲールの直感的な定義は「私たちが何か有利な情報を持っていて、数学的、統計的により良い結果を知ることができる確率過程」と言える。

起源

「マルティグ」のフランスの村では、いわゆる「二倍返し戦略」が流行していた。一回負けたら、その損失を補うためにより大きな賭けを繰り返す方式で、心理的な面はさておき、これが本当に賢い戦略かどうか考える必要がある。数学的に見ると、このような戦略の本質は $$ E \left( X_{n+1} | X_{1} , \cdots , X_{n} \right) = X_{n+1} $$ の式で要約できる。「これまでずっと負けてきたから、今回は勝つだろう」と賭博師の誤謬を指摘し、なぜマルチンゲールベッティングが意味をなさないかを説明する。

(1)

自己回帰過程 $AR(1)$ $X_{n+1} = X_{n} + \varepsilon_{n}$ を考えよう。フィルトレーションが与えられている場合、$X_{n}$ に対する情報をすべて知っているので、条件付き期待値の性質により $$ \begin{align*} E \left( X_{n+1} | \mathcal{F}_{n} \right) =& E \left( X_{n} + \varepsilon_{n} | \mathcal{F}_{n} \right) \\ =& E \left( X_{n} | \mathcal{F}_{n} \right) + E \left( \varepsilon_{n} | \mathcal{F}_{n} \right) \\ =& X_{n} + E \left( \varepsilon_{n} | \mathcal{F}_{n} \right) \\ =& X_{n} + E ( \varepsilon_{n} ) \\ =& X_{n} \end{align*} $$ となるので、$\left\{ (X_{n}, \mathcal{F}_{n}) \right\}$ はマルチンゲールとなる。

(2)

$\left\{ X_{n} \right\}_{n \in \mathbb{N}}$ が互いに独立であり、$E(X_{n}) = 0$ であり、$\displaystyle S_{n}:= \sum_{i =1}^{n} X_{i}$ とする。その場合 $$ \begin{align*} E(S_{n+1} | \mathcal{F}_{n} ) =& S_{n} + E( X_{n+1} | \mathcal{F}_{n} ) \\ =& S_{n} + E( X_{n+1} ) \\ =& S_{n} + 0 \end{align*} $$ となるので、$\left\{ (S_{n}, \mathcal{F}_{n}) \right\}$ はマルチンゲールとなる。

一方で、マルチンゲールと凸関数 $\phi$ が与えられた場合、上記のようにサブマルチンゲールを作り出すことができる。

定理

マルチンゲール $\left\{ (X_{n}, \mathcal{F}_{n}) \right\}$ と凸関数 $\phi: \mathbb{R} \to \mathbb{R}$ に対して、$( \phi (X_{n}) , \mathcal{F}_{n} )$ はサブマルチンゲールである。

証明

条件付きジェンセンの不等式:確率空間 $( \Omega , \mathcal{F} , P)$ とサブσフィールド $\mathcal{G} \subset \mathcal{F}$ が与えられ、$X$が確率変数であるとする。凸関数 $\phi: \mathbb{R} \to \mathbb{R}$ と $\phi (X) \in \mathcal{L}^{1} ( \Omega ) $に対して $$ \phi \left( E \left( X | \mathcal{G} \right) \right) \le E \left( \phi (X) | \mathcal{G} \right) $$

条件付きジェンセンの不等式により $$ E \left( \phi (X_{n+1}) | \mathcal{F}_{n} \right) \ge \phi \left( E \left( X_{n+1} | \mathcal{F}_{n} \right) \right) = \phi ( X_{n} ) $$

結論

この定理の結論として、$p \ge 1$ を $\phi (x) = | x |^{p}$ として設定すると、$\left\{ |X_{n}|^p , \mathcal{F}_{n} \right\}$ は常にサブマルチンゲールであることが分かる。

関連項目

様々なフィルトレーション

$$ A_{1} \subset A_{2} \subset \cdots \subset A_{n} \subset \cdots $$ 一般的に数学全般で、上記のようなネステッドシーケンスnested Sequenceを形成する構造をフィルトレーションfiltrationと使用する。