階段ポテンシャルに対するシュレーディンガー方程式の解
概要
ポテンシャルが上の図のように階段関数であるとき、粒子がどのように運動するかを調べてみよう。ポテンシャル$U$は
$$ U(x) = \begin{cases} 0 & x<0 \\ U_{0} & x>0 \end{cases} $$
ポテンシャルが$U(x)$であるときの時間に無関係なシュレーディンガー方程式は
$$ \dfrac{d^2 u(x)}{dx^2}+\frac{2m}{\hbar ^2} \Big[ E-U(x) \Big]u(x)=0 $$
解法1
$E<0$
エネルギーがポテンシャルより小さい場合、解が存在しないため考慮する必要はない。
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$0 < E < U_{0}$
Part 2-1. $x<0$
この領域でのシュレーディンガー方程式は次のようになる。
$$ \dfrac{d^2 u}{dx^2}+\frac{2m}{\hbar^2}Eu=0 $$
$\frac{2m}{\hbar^2}E$が正なので、$k^2$で置き換えると
$$ \dfrac{d^2 u}{dx^2}+k^2u=0 $$
これは非常に簡単な2階常微分方程式である。微分方程式を解くと、その解は次のようになる。
$$ u_{I}(x)=A_{+}e^{ikx} + A_{-}e^{-ikx} $$
ここで、$A_{+}$、$A_{-}$は定数だ。ここで、$u=A_{+}e^{ikx}$は入射波、$A_{-}e^{-ikx}$は反射波である。
Part 2-2. $x>0$
この領域でのシュレーディンガー方程式は次の通り。
$$ \dfrac{d^2 u}{dx^2}+\frac{2m}{\hbar^2}(E-U_{0})u=0 $$
$E-U_{0}<0$なので、$\frac{2m}{\hbar^2}(E-U_{0})=-\kappa ^2$で置き換えると
$$ \dfrac{d^2 u}{dx^2}-\kappa^2 u=0 $$
ここで、$\kappa$はギリシャ文字の「カパ」だ。$k$(ケイ)とは違う文字だ。この微分方程式の解は次の通り。
$$ u_{II}(x) = B_{+}e^{\kappa x}+B_{-}e^{-\kappa x} $$
波動関数は二乗積分可能である必要があるので、$\lim \limits_{x \rightarrow \infty}u_{II}(x)=0$でなければならない。ところが、$\lim \limits_{x \rightarrow \infty} B_{+}e^{\kappa x}=\infty $なので、$B_{+}=0$でなければならない。したがって、透過波は$u_{trans}=B_{-}e^{-\kappa x} $。
Part 2-3. 境界条件
波動関数は滑らかだと仮定するので、$x=0$では連続しており、波動関数の微分(勾配)も$x=0$で連続している。したがって次の条件が得られる。
$$ \begin{align*} u_{I}(0)=u_{II}(0) \quad \implies& \quad A_{+}+A_{-} = B_{-} \\ u_{I}^{\prime}(0)=u_{II}^{\prime}(0) \quad \implies& \quad ikA_{+}-ikA_{-} = -\kappa B_{-} \end{align*} $$
二つの式を連立させると次のようになる。
$$ \frac{A_{-}} {A_{+}} = \frac{ ik+\kappa}{ik -\kappa } $$
反射率と透過率を計算するために、入射波、反射波、透過波の確率流を求めてみると
$$ j_{inc}=\frac{\hbar k}{m}|A_{+}|^2,\quad j_{ref}=\frac{\hbar k}{m}|A_{-}|^2,\quad j_{trnas}=0 $$
したがって、反射率、透過率は
$$ R=\left| \frac{j_{ref}}{j_{inc}}\right|=\left| \frac{A_{-}} {A_{+}} \right|^2=\frac{\kappa^2+k^2}{\kappa^2 + k^2}=1 $$
$$ T=\left| \frac{ j_{trnas} }{j_{inc}}\right|=\frac{ 0}{\frac{\hbar k}{m}|A_{+}|^2}=0 $$
上の結果により、反射のみが起こり、透過は起こらないという事実が分かる。しかし、厳密には$B_{-} \ne 0$なので、$x>0$で粒子が発見される確率が存在する。つまり、巨視的に見ると入射した波動は全て反射されたと見なせるが、微視的に見ると入射波の一部が古典的には不可能な領域に透過したことになる。これをトンネル効果tunnelingまたは量子トンネル効果quantum tunnel effectという。
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$ U_{0} < E$
Part 3-1. $x<0$
この領域での時間に無関係なシュレーディンガー方程式は
$$ \dfrac{d^2 u}{dx^2}+\frac{2m}{\hbar^2}Eu=0 $$
$\frac{2m}{\hbar^2}E$が正なので、$k^2$で置き換えると
$$ \dfrac{d^2 u}{dx^2}+k^2u=0 $$
上記の式は**Part 2-1.**で既に解いたので、解を知っている。
$$ u_{I}(x)=A_{+}e^{ikx} + A_{-}e^{-ikx} $$
入射波は$u_{inc}=A_{+}e^{ikx}$、反射波は$u_{ref}=A_{-}e^{-ikx}$。
Part 3-2. $x>0$ この領域での時間に無関係なシュレーディンガー方程式は
$$ \dfrac{d^2 u}{dx^2}+\frac{2m}{\hbar^2}(E-U_{0})u=0 $$
$E-U_{0}>0$なので、$\frac{2m}{\hbar^2}(E-U_{0})=\kappa ^2$で置き換えると
$$ \dfrac{d^2 u}{dx^2}+\kappa ^2u=0 $$
**Part 3-1.**と同じ形なので解は
$$ u_{II}(x)=B_{+}e^{i \kappa x} + B_{-}e^{-i \kappa x} $$
この時、$x>0$領域において反射波がないので$B_{-}=0$だ。したがって
$$ u_{II}(x)=B_{+}e^{i \kappa x} $$
これが透過波である。
Part 3-3. 境界条件
波動関数は滑らかだと仮定するので、$x=0$では連続しており、波動関数の微分(勾配)も$x=0$で連続している。したがって
$$ u_{I}(0)=u_{II}(0) \quad \implies \quad A_{+}+A_{-} = B_{+} $$
$$ u_{I}^{\prime}(0)=u_{II}^{\prime}(0) \quad \implies \quad ikA_{+}-ikA_{-} = i\kappa B_{+} $$
上記二つの式を連立させると次のようになる。
$$ \frac{A_{-}} {A_{+}} = \frac{ k-\kappa}{k +\kappa } $$
$$ \frac{B_{+}} {A_{+}} = \frac{ 2k}{k +\kappa } $$
入射波、反射波、透過波の確率流は
$$ j_{inc}=\frac{\hbar k}{m}|A_{+}|^2,\quad j_{ref}=\frac{\hbar k}{m}|A_{-}|^2,\quad j_{trnas}=\frac{\hbar \kappa}{m}|B_{+}|^2 $$
したがって、反射率、透過率は
$$ R=\left| \frac{j_{ref}}{j_{inc}}\right|=\left| \frac{A_{-}} {A_{+}} \right|^2=\left( \frac{k-\kappa}{ k + \kappa }\right) ^2= \frac{k^2 -k\kappa +\kappa^2}{ (k + \kappa )^2 } $$
$$ T=\left| \frac{j_{trans}}{j_{inc}}\right|=\frac{\kappa}{k}\left| \frac{B_{+}} {A_{+}} \right|^2=\frac{\kappa}{k} \left( \frac{2k}{ k + \kappa }\right) ^2= \frac{2k \kappa }{ (k + \kappa )^2 } $$
$R+T=1$が成り立つことは簡単に確認できる。
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Stephen Gasiorowicz, 量子物理学(Quantum Physics, 西江大学物理学科共訳) (3rd Edition, 2005), p79-83 ↩︎