画像(信号、データ)におけるノイズとアーティファクトの違い
概要
ノイズとアーティファクトは共通して元の信号(データ)を損なう要素であり、除去すべき対象である。本書ではこの二つの特徴と、互いにどのような違いがあるのかについて説明する。
定義
画像におけるノイズnoise, 雑音とは、元の画像を損なう値であり、主に無作為で予測不可能かつ除去不可能な原因によって発生する画像の損傷を指す。
一方で、除去可能な原因で発生したり、規則的または予測可能な画像の損傷をアーティファクトartifactという。
説明
ノイズとアーティファクトはどちらも元の画像を損なう要素であり、除去すべき対象である。これらは様々な側面で違いがあり、まずノイズは「値」であるのに対し、アーティファクトは画像が損なわれた「現象」そのものを指す。数学的にノイズはベクトルといえるが(必ずしもそうではないが)、アーティファクトはオペレーター(関数)であるとみなすことができる。
後述する説明を要約すると、ノイズとアーティファクトの特徴は以下の通りである。
ノイズ | アーティファクト |
---|---|
無作為である | 規則的である |
予測できない | 予測可能である |
原因を除去できない | 原因を除去できる |
局所的である | 広い範囲で現れる |
種類
- ノイズ
- アーティファクト
- ブラー
除去技法
- ノイズ
- トータルバリエーション (Total Variation)
- アーティファクト
- ディコンボリューション
ノイズ
ノイズは主に無作為に発生し、除去できない原因によって生じる値を意味する。例えばデジタルカメラで写真を撮影する際、光を感知するセンサー自体の熱が測定された値に影響を与えることがある。このような場合にはノイズを発生させる根本的な原因を取り除くことはできず、予測できない無作為なものである。そのため、ノイズは主に確率変数でモデル化され、正規分布と仮定されることが多い。を元の画像、をノイズとすると、数学的にノイズが混ざった画像は次のように表現される。
ベクトルの和は各成分ごとの和で定義されるため、ノイズによる画像の損傷はピクセル単位で行われ、ノイズの成分は互いに独立すると仮定されるため、局所的な画像の損傷であると言える。
画像(信号)からノイズを除去することをデノイジングdenoisingという。理想的にはを計算して元の画像を得ることができるが、は未知の値であるため不可能である。つまり、デノイジングとは与えられた一つの値から二つの未知数、を推定する問題である。
以下は元の画像とガウシアンノイズが混じった画像の例である。
アーティファクト
アーティファクトは主に規則的で、比較的広い範囲で現れ、除去可能な原因によって生じる画像の損傷を指すことが多い。例えば歯のCT写真を撮る時、歯に金属成分があるとこれによってCT写真に深刻な損傷が生じる。このような損傷をアーティファクトと呼ぶ。以下の左の写真は無傷の歯を撮ったアーティファクトのないCT写真である1。右の写真は歯にかぶせられたアマルガムによりアーティファクトが発生したCT写真である2。


手ぶれなどによって画像がぼやけることもアーティファクトである。これは一般に数学的に畳み込みで表現される。元の画像を、任意のカーネルをとすると、ぼやけた画像blurry imageは次のようになる。
したがって、ぼやけた画像から鮮明な画像を復元することをディコンボリューション問題deconvolution problemという。以下は元の画像とガウシアンブラーが適用された画像の例である。
以下のように画像に横線、縦線などが現れることもアーティファクトと呼ぶ。(左:元の画像、右:アーティファクトのある画像)


CTやMRIなど医療画像を撮る際、患者が動いて生じる画像の損傷もアーティファクトであり、これをモーションアーティファクトmotion artifactと呼ぶ。3