多次元線形写像
定義 1
- マップ $T_{A} : \mathbb{R}^{m} \to \mathbb{R}^{m}$ が全ての $a,b \in \mathbb{R}$ と $\mathbf{x}, \mathbf{y} \in \mathbb{R}^{m}$ に対して $$ T_{A} ( a \mathbf{x} + b \mathbf{y} ) = a T_{A} ( \mathbf{x} ) + b T_{A} ( \mathbf{y} ) $$ を満たすならば、$T_{A}$ は 線形linearという。
$A$ の固有値を $\lambda_{1} , \cdots , \lambda_{m}$ としよう。
- $| \lambda_{1} | \ne 1, \cdots , | \lambda_{m} | \ne 1$ ならば、$A$ は 双曲線的hyperbolicである。
- 双曲線的な $A$ について、$\begin{cases} | \lambda_{i} | >1 \\ | \lambda_{j} | <1 \end{cases}$ を満たす $i,j$ が少なくとも一つ存在するなら、$\mathbb{0}$ は サドルであるという。
説明
実際に、マップ $T_{A}$ に対応する $m \times m$ サイズの行列 $A$ は $\displaystyle A ( a \mathbf{x} + b \mathbf{y} ) = a A \mathbf{x} + b A \mathbf{y}$ を満たす。本質的に $T_{A}$ と $A$ は同じなので、区別する必要はなく、$A$ 自体をマップと呼んでも問題ない。
一方で、このような線形マップで原点 $\mathbb{0}$ は $A \mathbb{0} = \mathbb{0}$ を満たすため、$T_{A}$ の不動点となる。不動点が出現したので、当然それについての議論も行われる。
サドルでない時の判定法
$\mathbb{0}$ がサドルでない場合、次の定理に従って、シンクまたはソースであるかを判断できる。
- [1]: $| \lambda_{1} | < 1, \cdots , | \lambda_{m} | < 1$ ならば、$\mathbb{0}$ はシンクである。
- [2]: $| \lambda_{1} | > 1, \cdots , | \lambda_{m} | > 1$ ならば、$\mathbb{0}$ はソースである。
例
双曲線的な線形マップの例として、$\mathbb{R}^2$ から $A:= \begin{bmatrix} 1/2 & 0 \\ 0 & 2 \end{bmatrix}$ を考えると、固有値は $\lambda_{1} = 1/2, \lambda_{2} = 2$ になる。平面上の初期点 $\mathbf{v}_{0} = (x,y)$ が与えられた場合、マップ $\mathbf{v}_{n+1} := A \mathbf{v}_{n}$ を適用するごとに $x$ の値は小さくなり、$y$ の値は大きくなるだろう。特に、原点はサドルになる。
$\displaystyle y = {{ 1 } \over { x }}$ は典型的な双曲線であり、その形を見れば、なぜこのようなマップを双曲線的と呼ぶのかがわかるだろう。もちろん、形にとらわれる必要はなく、双曲線的という表現はそれよりもはるかに大きな概念である。
原点がシンクになる線形マップの例として、$\mathbb{R}^2$ から $B:= \begin{bmatrix} 1/2 & 0 \\ 0 & 1/2 \end{bmatrix}$ を考えると、固有値は $\lambda_{1} = 1/2, \lambda_{2} = 1/2$ であり、平面上の全ての点はマップを適用するたびに原点に近づく。逆に、$C:= \begin{bmatrix} 2 & 0 \\ 0 & 2 \end{bmatrix}$ のような線形マップでは、$\mathbb{0}$ を除く全ての点はマップを適用するたびに原点から離れ、ソースになる。
Yorke. (1996). CHAOS: An Introduction to Dynamical Systems: p62, 68. ↩︎